日本の生命保険や個人年金保険は、海外に移住しても保険料を払い込めば有効に続けられるのが一般的ですが、渡航の届出、保険料の払い方、保険金の受け取り方などの具体的な扱いは保険会社と約款ごとに異なります。税金面では、日本の保険会社から非居住者が受け取る個人年金は国内源泉所得として20.42%の源泉徴収の対象になり、生命保険料控除や地震保険料控除は非居住者の期間には使えません。また、日本に住んでいる間に日本で免許のない海外の保険会社と契約するには、事前に内閣総理大臣の許可が必要です。
海外に移住しても日本の生命保険は続けられるか
公益財団法人生命保険文化センターのQ&Aでは、海外に転勤しても保険料を払い込むことによって生命保険を有効に継続でき、海外で死亡した場合のほか、一般的には病気やケガで入院した場合も保険金や給付金を請求できると説明されています。多くの生命保険会社は「海外渡航のてびき」などを用意しているため、出国前に自分の契約の扱いを確認しておくことが勧められています。
ただし、契約者や被保険者が日本の非居住者になったときにどう扱うかは、法律で一律に決まっているわけではなく、各社の約款と取扱いによります。医療保険の給付の条件、海外の医療機関の書類の扱い、特約の継続可否、海外居住中の契約変更(増額・特約の追加など)ができるかどうかは、会社や商品によって異なるため、契約先に個別に確認してください。
保険法では、契約時に保険会社が告知を求めた事項(告知事項)について危険が高くなった場合、その変更を遅滞なく通知すべきことが契約で定められていて、契約者や被保険者が故意または重大な過失で通知しなかったときは、保険会社が契約を解除できるとされています(生命保険は第56条、損害保険は第29条)。海外への転居や職業の変更が通知の対象になるかどうかも約款しだいなので、「海外渡航届」などの所定の届出を出しておくのが安全です。
- 出国前に保険会社へ連絡し、所定の「海外渡航届」などを提出する
- 保険料の払い込み方法、保険金・給付金の請求方法、海外での住所や連絡先の届出方法を確認する
- 契約中の特約や医療保障が海外居住中も続くか、条件が変わるかを約款・「海外渡航のてびき」で確認する
- 契約者と被保険者・受取人が異なる契約は、それぞれの居住地も含めて確認する
保険料の払い込み・住所変更・失効を防ぐ手続き
生命保険文化センターは、海外渡航中の保険料の払い込み方法として、国内の代理人からの払い込み、本人の国内の金融機関口座や勤務先の国内の給与からの引き去り、前納や一括払による払い込みなどを挙げています。国内の代理人とは保険料の払い込みなどを契約者から委任された人で、渡航前に保険会社に委任状を出して手続きをします。
保険金・給付金の請求方法には、国内の代理人経由、日本に帰国して請求、海外からの直接請求があり、会社によって異なります。また、生命保険会社は一般的に保険金などを海外に送金する取り扱いを行っていないとされているため、日本の銀行口座を残すかどうかも含めて事前に確認しておく必要があります(海外移住後の日本の口座の扱いは別ガイドで解説しています)。
住所変更の手続きをしておかないと、保険会社からの重要なお知らせが届かなくなります。払込猶予期間を過ぎても保険料が払い込まれないと、自動振替貸付(解約返戻金の範囲内での保険料の立替え)が適用されるか、契約が失効します。猶予期間は会社によって異なり、月払の例では払込期月の翌月の1日から末日までです。
- 失効しても3年など一定期間内なら「復活」できる場合がありますが、告知または診査と失効期間中の保険料の払い込みが必要で、健康状態によっては復活できないことがあります。復活を取り扱わない会社や商品もあります
- 海外で保険料を払い続けるのが難しい場合は、保険料の払い込みを中止して契約を続ける「払済保険」「延長(定期)保険」への変更や、保険金の減額という方法もあります(解約返戻金が少ない場合や保険種類によっては変更できません)
- 個人年金保険料税制適格特約を付けた個人年金保険は、契約後10年間は払済年金保険へ変更できません
- 解約すると以降の保障はなくなり、一度解約した契約は元に戻りません。解約返戻金は通常、払い込んだ保険料の総額より少なくなります。帰国後に入り直す場合は、年齢が上がった分保険料が割高になったり、健康状態によっては契約できなかったりすることがあります
新しく保険に入るとき:海外の保険会社と保険業法186条
保険業法第186条第1項は、日本に支店等を設けない外国保険業者(日本で免許を受けていない海外の保険会社)が、日本に住所もしくは居所を有する人、日本に所在する財産、日本国籍の船舶・航空機に係る保険契約を締結することを、原則として禁止しています。金融庁はこれを「海外直接付保の禁止」と説明しています。
同条第2項により、こうした保険契約の申込みをしようとする人は、申込みの時までに内閣総理大臣の許可を受けなければなりません。許可を受けずに申し込んだ場合は、50万円以下の過料に処せられることがあります(同法第337条)。許可は、保険契約の内容が法令違反・不公正である場合や、国内の保険会社等と同等または有利な条件で契約することが容易である場合などには、してはならないとされています。
金融庁は2024年10月17日、「海外の保険会社の生命保険の勧誘を受けているが、加入しても問題ないか」といった相談が寄せられているとして注意喚起を公表しました。免許を取得していない外国保険業者は、契約者保護のための態勢が確保されているかを当局が確認できず、契約者が不測の損害を受ける可能性もあるとして、加入前に金融庁の「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」などで免許の有無を確認するよう呼びかけています。
- 規制の対象は「日本に住所もしくは居所を有する人」「日本に所在する財産」などに係る保険契約です。移住前(日本に住んでいる間)に海外の保険会社の生命保険に申し込む場合は、この規制を必ず確認してください
- 海外に移住した後も、日本の自宅など日本に所在する財産を海外の無免許の保険会社で保険にかける場合は対象になります
- 例外として、再保険、国際海上運送・商業航空の日本籍船舶・航空機と国際運送中の貨物、海外旅行期間中の傷害・疾病・死亡・手荷物を対象とする保険契約などが政令・内閣府令で定められています(保険業法施行令第19条、施行規則第116条)
- 海外に住んでいる人が日本の保険会社と新規に契約できるかどうかについて、公的機関の一般的な説明は確認できませんでした。引受けの可否は各保険会社の基準によるため、契約前に直接確認してください。居住国の保険規制も国ごとに異なります
非居住者が受け取る個人年金・保険金・解約返戻金の税金
日本の居住者が、自分で保険料を負担した個人年金保険の年金を受け取る場合は、公的年金等以外の雑所得として課税され、(年金の額-対応する保険料)×10.21%が源泉徴収されます(その残額が年25万円未満なら源泉徴収なし)。満期保険金や解約返戻金を一時金で受け取ると一時所得になり、(受取額-払込保険料-特別控除50万円)×2分の1が課税対象です。
非居住者の場合は、日本で稼得した「国内源泉所得」だけが課税されます。国税庁タックスアンサーNo.2878では、国内にある営業所等を通じて締結した保険契約等に基づく年金等が国内源泉所得とされ、No.2884では「生命保険契約に基づく年金等」の源泉徴収税率は20.42%(払い込まれた保険料のうち年金の額に対応する部分を控除した金額に税率を乗じる)とされています。所得税法第161条第1項第14号では、年金の支払開始日以後に年金に代えて支給される一時金もこの年金に含まれ、恒久的施設を持たない非居住者については源泉徴収だけで課税が完結する分離課税です(同法第164条第2項)。
一時払養老保険などで保険期間が5年以下のもの、または5年を超えるもので5年以内に解約されたものの差益は「金融類似商品」で、居住者は20.315%(所得税等15.315%、住民税5%)の源泉分離課税です。非居住者の場合、国内の営業所等を通じて締結した契約の差益は国内源泉所得(所得税法第161条第1項第15号)とされ、No.2884の「定期積金の給付補てん金等」として源泉徴収税率は15.315%です。
それ以外の満期保険金や解約返戻金(一時所得)について、所得税法施行令第289条は「国内においてした行為に伴い取得する一時所得」などを国内源泉所得に含めていますが、生命保険の一時金が非居住者の場合にどう扱われるかを個別に説明した国税庁のタックスアンサーは確認できませんでした。国内源泉所得に当たる場合は源泉徴収ではなく確定申告による総合課税となるため、多額の解約返戻金や満期保険金を受け取る予定がある人は、所轄の税務署か税理士に確認してください。
- 源泉徴収の対象となる国内源泉所得を非居住者に支払う場合、支払者は原則として所得税と復興特別所得税を源泉徴収します。令和9年(2027年)分以後は防衛特別所得税が加わりますが、国税庁は合計の税率に変更はないとしています
- 居住国と日本の間に租税条約があれば、税率が軽減・免除されることがあります。適用を受けるには、支払日の前日までに「租税条約に関する届出書」を支払者(保険会社)経由で税務署長に提出します
- 居住国でも課税されるかどうか、日本で源泉徴収された税をどう調整するかは、居住国の税法と租税条約によります
- 出国する年に受け取った分は、居住者期間か非居住者期間かで扱いが変わります。居住者・非居住者の判定は別ガイド(183日ルールと税務上の居住者)を参照してください
死亡保険金と相続税(非居住者が関わる場合)
被保険者が亡くなり、被保険者自身が保険料を負担していた場合、受取人が受け取る死亡保険金は相続または遺贈により取得したものとみなされ、相続税の対象になります。保険料の負担者と受取人が同じ人なら所得税(一時所得または雑所得)、被保険者・負担者・受取人がすべて異なれば贈与税の対象です。
相続人が受け取った死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額があり、これを超える部分が課税されます。相続人以外の人が受け取った死亡保険金には非課税の適用はありません。
相続税法では、保険金の所在は保険契約を締結した保険会社の本店または主たる事務所の所在地で判定されます(相続税法第10条第1項第5号。日本に本店がない保険会社でも、日本に契約事務を行う営業所等があればその所在地)。日本の保険会社の死亡保険金は国内財産なので、海外に住む相続人が取得した場合でも相続税の対象になります。海外に住む相続人が申告する場合は納税管理人を定めて届け出ます。
- 海外に住む相続人に国外財産まで課税されるかどうか(日本国籍の有無や過去10年以内の日本の住所の有無などによる区分)は、海外移住と相続税のガイドで解説しています
- 受取人を変更する場合は被保険者の同意が必要で、保険金の支払事由が発生した後は変更できません。2010年(平成22年)4月以降の契約では遺言による受取人の変更も可能です
生命保険料控除・地震保険料控除は非居住者期間に使えない
生命保険料控除(新契約の場合、一般・介護医療・個人年金の各最高4万円、合計最高12万円。令和8年分以降は、23歳未満の扶養親族がいる場合の新生命保険料の控除が最高6万円)と地震保険料控除(最高5万円)は、いずれも居住者がその年に支払った保険料が対象です。所得税法第165条は、非居住者の総合課税の計算で医療費控除から地震保険料控除まで(第73条〜第77条)を準用しないとしているため、非居住者になった後に支払った保険料はこれらの控除の対象になりません。
国税庁の質疑応答事例では、居住者期間と非居住者期間のどちらに支払ったかは支払の時点で判定するとされています。年払の保険料をその年の居住者期間中に支払っていれば全額が控除の対象になりますが、前納保険料は按分計算をするため、非居住者期間内に払込期日が来る部分は控除の対象になりません。出国する年の準確定申告や確定申告では、この区分に注意してください。
地震保険料控除は、自己や生計を一にする親族が「常時その居住の用に供する」家屋などが対象です。帰国して居住者に戻った年は、居住者期間に支払った保険料について控除を受けられます(帰国後の手続は帰国ガイドを参照してください)。
日本の自宅の火災保険・地震保険(空き家・賃貸に出す場合)
移住後に日本の自宅を空き家にしたり賃貸に出したりする場合、火災保険の扱いが変わる可能性があります。保険法第4条は、契約時に保険会社が求めた告知事項について事実を告知する義務を定め、第29条は、告知事項についての危険が高くなり、その変更を通知すべきことが契約で定められているのに、故意または重大な過失で遅滞なく通知しなかった場合に保険会社が契約を解除できるとしています。解除された場合、危険増加が生じた時から解除までに起きた事故の損害は、危険増加と関係なく起きたものを除いて補償されません(第31条)。
建物の用途や居住状況の変更が告知事項・通知事項に当たるか、空き家や賃貸物件として引き受けを続けるか、保険料がどう変わるかは、各損害保険会社の約款と引受基準によります。公的機関の一般的な基準は確認できなかったため、住まなくなる前に契約先へ連絡し、書面で確認しておくことをおすすめします。
地震保険は、地震保険に関する法律で居住の用に供する建物と生活用動産(家財)のみを対象とする保険と定められており、財務省は工場や事務所専用の建物など住居として使用されない建物は対象外と説明しています。保険金額は火災保険の保険金額の30%〜50%の範囲で、建物5,000万円・家財1,000万円が限度です。空き家や賃貸にした建物の地震保険が続けられるかどうかも、契約先に確認してください。
- 日本の自宅は「日本に所在する財産」なので、居住国の保険会社で保険をかける場合でも、日本で免許のない保険会社なら保険業法186条の規制の対象になります
- 非居住者になると地震保険料控除は使えません
- 日本の不動産の管理・賃貸収入の税金は、別ガイド(海外移住後の日本の不動産)で解説しています
- 本ページは制度の一般的な説明で、個別の契約や税務のアドバイスではありません。契約の扱いは保険会社に、税金は税理士または所轄の税務署にご相談ください
よくある質問
Q. 海外に移住したら日本の生命保険は解約しなければいけませんか?
A. 一律に解約が必要なわけではありません。生命保険文化センターは、海外に転勤しても保険料を払い込むことによって生命保険を有効に継続できると説明しています。ただし、海外渡航の届出、保険料の払い込み方法、保険金の請求方法や特約の扱いは保険会社と約款ごとに異なるため、出国前に契約先に確認してください。
Q. 非居住者になってから日本の個人年金保険の年金を受け取ると、税金はどうなりますか?
A. 国内の営業所等を通じて締結した保険契約に基づく年金は国内源泉所得とされ、国税庁タックスアンサーNo.2884では、(年金の額-対応する保険料)に20.42%の税率で源泉徴収されるとされています。恒久的施設を持たない非居住者は源泉徴収で課税が完結します。租税条約で軽減・免除される場合は、支払日の前日までに「租税条約に関する届出書」を保険会社経由で提出します。
Q. 日本に住んでいる間に、海外の保険会社の生命保険に入ってもよいですか?
A. 日本で免許を受けていない外国保険業者は、日本に住所・居所がある人などに係る保険契約を原則として締結できません(保険業法186条1項)。契約を申し込むには、申込みの時までに内閣総理大臣の許可が必要で、許可を受けずに申し込むと50万円以下の過料に処せられることがあります。金融庁は2024年10月に、無免許の外国保険業者の勧誘について注意喚起を出しています。
Q. 海外に住んでいる間に払った生命保険料は、生命保険料控除の対象になりますか?
A. なりません。生命保険料控除は居住者が支払った保険料が対象で、非居住者期間に支払ったものは対象外です。どちらの期間の支払かは支払時点で判定し、年払を居住者期間中に支払えば全額が対象ですが、前納保険料は按分し、非居住者期間に払込期日が来る部分は対象外となります。
Q. 日本の保険会社から海外の口座に保険金を送金してもらえますか?
A. 生命保険文化センターによると、生命保険会社は一般的に保険金などを海外に送金する取り扱いを行っていません。請求方法も国内の代理人経由、帰国して請求、海外からの直接請求など会社によって異なるため、日本の口座を残すか、代理人を立てるかを出国前に決めておく必要があります。
Q. 日本の自宅を空き家にしたら、火災保険会社に連絡が必要ですか?
A. 多くの場合、確認が必要です。保険法では、告知事項の内容に変更があったときに通知すべきことが契約で定められている場合、故意または重大な過失で通知しないと契約を解除されることがあり、その間の事故が補償されないおそれがあります。空き家化や賃貸化が通知事項に当たるかは約款によるため、住まなくなる前に契約先へ連絡してください。
出典
本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、税務・法務の助言ではありません。個別の状況については税理士・税務署・年金事務所・市区町村などに確認してください。