個人住民税は、その年の1月1日に住所がある市区町村が、前年1年間の所得に対して課税する「1年遅れ」の税です。そのため、年の途中で海外へ転出しても、その年度の住民税は出国後に納める必要があり、出国前に納税管理人の申告や一括納付の準備をしておくことが欠かせません。一方、翌年1月1日に国内に住所がなければ翌年度の住民税はかからず、ふるさと納税の住民税控除も受けられなくなります。
住民税の基本:1月1日ルールと「1年遅れ」の課税
個人住民税(道府県民税・市町村民税。東京23区では都民税・特別区民税)は、前年の所得に応じてかかる「所得割」と、定額の「均等割」からなります。所得割の標準税率は10%(道府県民税4%、市町村民税6%。政令指定都市は2%と8%)で、前年1月1日から12月31日までの所得で計算されます。均等割の標準税額は4,000円(道府県民税1,000円、市町村民税3,000円)です。
個人住民税の賦課期日は、その年度の初日が属する年の1月1日です(地方税法第318条)。地方税法第294条第2項により、「市町村内に住所を有する個人」とは、住民基本台帳法の適用を受ける人については、その市町村の住民基本台帳に記録されている人をいいます。つまり、原則として1月1日に住民票がある市区町村が、その年度(6月から翌年5月)の住民税を課税します。
海外移住で押さえておきたいポイントは次のとおりです。
- 1月2日以降に出国(国外転出)しても、その年の1月1日に住民票があれば、その年度の住民税は全額課税されます。出国によって税額は変わりません
- 住民票の国外転出の届出を済ませ、異動日(出国日)が1月1日以前であれば、その年度の住民税は課税されません(港区のよくある質問)
- 海外転出届を出さずに出国すると、住民票のある市区町村に住所があるものとして課税されます
- 住民票がなくても、実際にその市区町村に住所がある人には、住民基本台帳に記録されているものとみなして課税できるとされています(地方税法第294条第3項)
- 所得税(国税)の居住者・非居住者の判定とは別の制度です。所得税の扱いは、出国時の確定申告や納税管理人の届出について別途確認が必要です
出国する年と翌年の住民税:具体例で確認
中央区の案内では、例えば令和8年(2026年)3月に国外転出する場合、令和8年1月1日に住民票があるため、令和8年度の住民税(令和7年分の所得に対する住民税)の課税対象になると説明されています。出国時に全額を納付していても、出国日によっては翌年度の住民税が課税されることがあるとも注意しています。
出国のタイミングごとの整理は次のとおりです(いずれも所得や扶養の状況により非課税となる場合を除きます)。
- 2026年1月2日から12月31日の間に出国:2026年度(2025年分の所得)の住民税がかかります。納税通知書は例年6月ごろに送付されるため、出国後に届くケースが多くなります
- 上記の場合、2027年1月1日に国内に住所がなければ、2027年度の住民税はかかりません。その結果、出国した年(2026年)の所得には住民税の所得割が課されないことになります(所得税は別に課税されます)
- 2027年1月1日を日本で迎えてから出国する場合:2027年度(2026年分の所得)の住民税もかかります。年明け早々の出国では、前年分と当年分の2年度分の納付が出国後に残ることがあります
- 退職金(退職所得)の住民税は他の所得と分離して課税され、通常は退職金の支払時に所得税とともに特別徴収されます。課税するのは、退職金の支払を受けるべき日の属する年の1月1日現在の住所地の市区町村です(地方税法第328条)
納税管理人の申告:市区町村への届出が必要
地方税法第300条により、住民税の納税義務者が、その市区町村内に住所・居所・事務所などを持たなくなる場合は、納税に関する一切の事項を処理させるため、納税管理人を定めて市区町村長に申告(または承認の申請)をしなければなりません。徴収の確保に支障がないとして市区町村長の認定を受けた場合は、納税管理人を定める必要はありません。
納税管理人は、本人に代わって納税通知書を受け取り、納付や還付金の受領などを行う人です。税務署に届け出る所得税の納税管理人とは別の手続なので、住民税については1月1日時点の住所地の市区町村に申告します。
- 文京区は、1月2日以降に国外転出する場合は事前に納税管理人の申告が必要としています
- 提出期限は自治体ごとに定められています。例えば横浜市は、国外へ転出(出国)する日の10日前までの提出を求めています(窓口・郵送・eLTAXで提出可)
- 納税管理人は親族である必要はなく、友人や法人を指定することもできます(横浜市)。ただし、納税管理人は納税義務を負わないため、滞納した場合の滞納処分は本人に対して行われます
- 大田区では、申告書のほか、納税義務者の番号確認書類の写しと、納税義務者・納税管理人それぞれの身元確認書類の写しの提出を求めています
- 口座振替を設定していても、納税通知書を受け取るための納税管理人の申告が必要とする自治体があります(大田区)
- 届出がないまま出国すると納税通知書を送れず、区役所の掲示場に掲示する「公示送達」が行われることがあります。納期限までに納めないと督促や延滞金、最終的には差押え等の滞納処分につながります(大田区・中央区)
- 事情により納税管理人を立てられない場合、出国先住所へエアメールで通知する方法などを案内している自治体もあります(中央区)。早めに税務担当課に相談してください
- 帰国した後は、納税管理人の解任(解除)の手続が必要です(大田区・横浜市)
会社員の退職・出国:特別徴収から一括徴収・普通徴収へ
住民税の納め方には、会社が給与から天引きして納める「特別徴収」と、本人が納税通知書で納める「普通徴収」があります。給与所得者の特別徴収では、市区町村が5月31日までに会社へ税額を通知し、6月から翌年5月までの12回に分けて給与から差し引かれます。普通徴収は原則として年4回に分けて納めます。
退職して会社から給与を受けなくなると、残りの税額(未徴収税額)は「一括徴収」(最後の給与や退職金からまとめて差し引く)か「普通徴収」に切り替わります。会社は、異動があった月の翌月10日までに「給与所得者異動届出書」を市区町村に提出します。退職の時期による違いは、地方税法第321条の5第2項に定められています。
- 6月1日から12月31日までに退職:原則として普通徴収に切り替わります。本人が申し出れば、最後の給与や退職金から残りを一括徴収できます
- 翌年1月1日から4月30日までに退職:本人の申出がなくても一括徴収するのが原則です。ただし、5月31日までに支払われる給与や退職手当等が残りの税額を超える場合に限られ、足りない場合などは普通徴収になります
- 5月は年度(6月から翌年5月)の最終月のため、5月中の退職では翌月以降に残る月割額はありません
- 普通徴収に切り替わった場合、納税通知書は本人に送られます。出国する場合は納税管理人を選任しておかないと受け取れません(江戸川区)
- 足立区は、9月下旬以降に普通徴収に切り替えた場合、普通徴収の納期の関係で1月末日までに一括で納めることになると案内しています
- 出国後も会社が給与から差し引きを続ける場合や、退職時に全額を一括で納めた場合は、納税管理人は不要とする区があります。ただし一括徴収していても、翌年1月2日以降に出国する場合は翌年度も課税されるため選任が必要です(江戸川区)
- 公的年金から住民税が差し引かれている人が国外転出すると、普通徴収に切り替わります。いつの年金から切り替わるかは人により異なるため、出国が決まった段階で市区町村に確認してください(中央区)
森林環境税と均等割、日本に家を残す場合
森林環境税は、国内に住所のある個人に課税される国税で、2024年度(令和6年度)から、市区町村が個人住民税の均等割と併せて1人年額1,000円を徴収しています。税収の全額は、森林環境譲与税として都道府県・市町村に譲与されます。
住民税と一緒に課税・徴収されるため、1月1日に国内に住所がある年度は、出国後であっても住民税とともに納めることになります。大田区などでは、納税管理人の申告書の様式名にも森林環境税が含まれています。
日本の住居を手放さずに出国する場合は、均等割にも注意してください。東京都主税局によると、1月1日現在その区市町村内に住所がなくても、事務所や家屋敷を持っている人(借りている場合を含み、人に貸している場合を除く)には均等割だけが課税されます(地方税法第294条第1項第2号)。自宅を空き家のまま残す場合などが該当し得るため、詳しくは所在地の市区町村に確認してください。
一時帰国中・住民票を残したままの場合の扱い
住民税の課税は1月1日時点の住所で判定されます。赤穂市の案内では、1月1日現在、海外に居住している人(国内に住民登録がない人)は個人住民税が課税されないとしたうえで、出国の期間・目的・出国中の居住の状況などから単に旅行にすぎないと認められる場合は、出国中であっても出国前の市区町村に住所があるものとして課税されると説明しています。
- 海外に生活の本拠を移しても、転出届を出さずに住民票を残したままにしていると、1月1日に住民票のある市区町村で課税されます
- 一時帰国中に転入届を出して住民票を戻し、そのまま1月1日を迎えると、その年度の住民税の課税対象になります。年末年始の一時帰国で住民登録をするかどうかは、税への影響も踏まえて判断してください
- 赤穂市は、ワーキング・ホリデーで出国した場合は「居住」ではなく「旅行」とみなし、1年以上の予定で出国中でも出国前の住所地で課税するとしています。扱いは自治体の判断によるため、該当する人は住所地の市区町村に確認してください
- 同じく赤穂市の案内では、国外で継続して1年以上居住することを通常必要とする職業に就く場合などは、国内に住所がないものとして取り扱われるとしています
海外在住者のふるさと納税:住民税の控除は受けられない
ふるさと納税は、自治体への寄附額のうち2,000円を超える部分について、所得税と個人住民税から控除を受けられる仕組みです。住民税の控除は、ふるさと納税をした年の翌年度の住民税から差し引かれます。地方税法第314条の7では、寄附金税額控除は「所得割の納税義務者」が前年中に支出した寄附金について、その所得割の額から控除するものとされています。
そのため、寄附をした年の翌年1月1日に国内に住所がなく翌年度の住民税(所得割)がかからない人は、住民税からの控除を受けられません。所得税の寄附金控除については、国税庁によると非居住者も適用できる所得控除(雑損控除・寄附金控除・基礎控除の3種類)に含まれています。
- 出国する年の前年に行ったふるさと納税:出国する年度の住民税(1月1日に住所がある年度)から控除されます
- 出国する年に行ったふるさと納税:翌年1月1日に国内に住所がなければ、住民税からの控除はありません。所得税の寄附金控除(寄附額から2,000円を引いた額を所得から控除。総所得金額等の40%が上限)を受けるには、その年分の確定申告が必要です
- ワンストップ特例は、所得税からの控除を行わず、控除額の全額を翌年度の住民税から差し引く仕組みです。翌年度の住民税がかからない場合は控除の効果がないため、所得税の控除を受けたい場合は確定申告をします。確定申告をするとワンストップ特例の申請は無効になります
- ワンストップ特例の申請後に転居等で住所が変わった場合は、寄附をした翌年の1月10日までに寄附先の自治体へ変更届出書を出す必要があります
- 海外移住後も、国内の不動産所得など総合課税の対象となる国内源泉所得があって日本で確定申告をする人は、所得税の寄附金控除を計算に含められます。所得税率が低い場合や所得が少ない場合は、控除による軽減額も小さくなります
- 本ページは制度の一般的な説明で、個別の税務アドバイスではありません。具体的な税額や手続は、住所地の市区町村の税務担当課、税務署または税理士に確認してください
よくある質問
Q. 3月に海外へ移住します。今年の住民税はかかりますか?
A. かかります。住民税は1月1日に住民票がある市区町村が前年の所得に対して課税するため、1月2日以降に出国しても、その年度の住民税は全額課税されます。納税通知書は例年6月ごろに送られるので、出国前に市区町村へ納税管理人を申告するなどの準備が必要です。
Q. 12月に出国すれば、翌年の住民税はかからないのですか?
A. 住民票の国外転出を済ませ、異動日(出国日)が1月1日以前であれば、翌年度の住民税は課税されません。ただし、転出届を出さずに住民票を残したままにしている場合や、出国が単なる旅行と判断される場合は課税されます。出国した年度の住民税(前年分の所得に対するもの)は別に納める必要があります。
Q. 会社を3月に退職してから出国します。住民税はどうなりますか?
A. 1月1日から4月30日までの退職では、本人の申出がなくても、残りの住民税(5月分まで)を最後の給与や退職金から一括徴収するのが原則です(地方税法第321条の5第2項)。給与等が残りの税額に足りない場合などは普通徴収に切り替わります。また、その年の1月1日に住所があるため、その年度(6月から翌年5月分)の住民税も課税されます。納税管理人の申告が必要か、住所地の市区町村に確認してください。
Q. 住民税の納税管理人は税務署に出す届出と同じですか?
A. 別の手続です。所得税の納税管理人は税務署に「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」を提出しますが、住民税の納税管理人は1月1日時点の住所地の市区町村に申告します。提出期限や添付書類は自治体ごとに異なり、例えば横浜市は出国の10日前までの提出を求めています。
Q. 海外に住んでいてもふるさと納税はできますか?控除は受けられますか?
A. 寄附そのものはできますが、寄附をした年の翌年1月1日に国内に住所がなければ翌年度の住民税がかからないため、住民税からの控除は受けられません。所得税の寄附金控除は非居住者も対象ですが、日本で確定申告をする国内源泉所得がない場合は控除の効果がありません。ワンストップ特例は控除の全額を住民税から差し引く仕組みのため、住民税がかからない人には効果がありません。
Q. 森林環境税も出国後に払う必要がありますか?
A. 森林環境税は、国内に住所のある個人に課税される国税で、2024年度から個人住民税の均等割と併せて1人年額1,000円が徴収されています。1月1日に国内に住所がある年度は、住民税と一緒に課税されるため、出国後でも納める必要があります。
出典
本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、税務・法務の助言ではありません。個別の状況については税理士・税務署・年金事務所・市区町村などに確認してください。