日本の会社から1年以上の予定で海外の支店や子会社に赴任する人は、所得税法上、原則として出国の時から非居住者として扱われ、海外勤務に対する給与には原則として日本の所得税がかかりません。一方で、健康保険と厚生年金保険は日本の会社との雇用関係と給与の支払が続く限り原則として継続し、赴任先の国と社会保障協定があれば「適用証明書」で現地制度への二重加入を避けられます。出国前の年末調整、役員報酬や賞与の扱い、日本に残した自宅、住民税、帰任時の年末調整まで、赴任の前後で必要になる手続を順に整理します。
1年以上の海外赴任で「非居住者」になる仕組み
所得税法では、国内に「住所」を有するか、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人を居住者、それ以外の個人を非居住者といいます。住所は「生活の本拠」をいい、客観的な事実で判定します。
海外赴任の場合は、所得税法施行令第15条の「住所の推定」が重要です。国外に居住することとなった人が、国外で継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を持つ場合は、国内に住所を有しない者と推定されます。国税庁は、1年以上の予定で海外の支店などに転勤したり海外の子会社に出向したりする人は、国外での在留期間があらかじめ1年未満であることが明らかな場合を除き、原則として非居住者と推定されると説明しています。生計を一にする配偶者や扶養親族が一緒に国外に住む場合は、家族も国内に住所を有しない者と推定されます。
非居住者として扱われるのは出国の時からで、確定申告の計算では出国(転出)した日の翌日からその年の12月31日までが「非居住者期間」になります。非居住者は日本国内で生じた「国内源泉所得」だけが課税対象です。
- 1年以上の予定で出国した人が業務の都合で1年未満で帰国することになった場合:1年未満となることが明らかになった日以後は居住者になります。出国時にさかのぼって居住者になるわけではありません
- 1年未満の予定で出国した人の海外勤務が1年以上に延びた場合:出国の時は居住者として扱われ、1年以上になることが明らかになった日以後は非居住者になります
- 1年未満の短期赴任や長期出張の場合は居住者のままで、海外で得た給与も含めて日本で課税されます。赴任先の国の課税との二重課税は租税条約や外国税額控除で調整します
- 183日ルールなど居住者判定の一般的な考え方は、居住者判定を扱う別のガイドを参照してください
出国前に必要な税金の手続:年末調整と納税管理人
1年以上の予定で海外に転勤する人に対しては、会社(給与の支払者)が出国の日までに年末調整をしなければなりません。対象は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していて、その年に支払が確定した給与が2,000万円以下の人です。居住者としての最後の給与の支給の際に、それまでに源泉徴収された所得税を精算します。
出国時の年末調整では、通常の12月の年末調整と次の点が異なります。
- 社会保険料や生命保険料などの保険料控除は、出国の日(居住者であった期間)までに支払ったものに限られます。会社に「給与所得者の保険料控除申告書」を提出します
- 扶養控除、配偶者控除・配偶者特別控除、特定親族特別控除の対象になるかどうかは出国の時の現況で判定します。配偶者や扶養親族の所得は、出国の時の現況でその年1年分(1月1日から12月31日まで)を見積もって判断します
- 出国の時に見積もったその年の合計所得金額が2,500万円以下であれば、基礎控除を受けられます
- 扶養控除等申告書の内容に変更があれば異動申告書を出し、「基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書」も提出します
- 給与収入が2,000万円を超える人や、給与以外に一定の所得があって確定申告が必要な人が、納税管理人の届出をしないで出国する場合は、出国の時までに準確定申告をしなければなりません
- 赴任後も日本で確定申告が必要になりそうな人(不動産収入がある人など)は、納税地の所轄税務署長に「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」を提出します。納税管理人は個人でも法人でもよく、税務署からの書類は納税管理人宛てに送られます
赴任中の給与・役員報酬・賞与の課税
非居住者となった使用人(従業員)の海外での勤務に対する給与は国内源泉所得に当たらないため、日本では源泉徴収の必要がありません。国税庁は、たとえ給与が日本の本社から支払われていても、勤務地が外国であれば原則として日本の所得税は課税されないと説明しています。課税関係を決めるのは支払場所ではなく、どこで勤務したかです。
取扱いが大きく異なるのが、日本の会社(内国法人)の役員です。内国法人の役員として受ける報酬は、海外勤務に対するものであっても国内源泉所得とされ、支払の際に20.42%の税率で源泉徴収されます。ただし、海外支店の支店長のように、その内国法人の使用人として常時海外で勤務している役員の場合は、源泉徴収の必要はありません。
- 出国後に日本で支払われる賞与などで、その計算期間に日本での勤務期間が含まれる場合は、日本での勤務に対応する部分に20.42%の源泉徴収が必要です。原則として「給与等の総額 × 国内で勤務した期間の日数 ÷ 給与等の計算期間の日数」で按分します
- 給与の計算期間の途中で非居住者になった場合でも、計算期間が1か月以下の給与は、全額が日本での勤務に対応するものでない限り源泉徴収しなくてよいことになっています
- 赴任中に一時的な出張などで日本で勤務した場合も、その勤務に対応する部分は同じ算式で国内源泉所得として計算します。非課税の旅費とは別に出張手当などが出る場合は、原則としてその全額が日本での勤務に対応する部分になります
- 赴任先の国と日本との租税条約によっては、日本での滞在がその年に開始し、または終了するいずれの12か月の期間でも合計183日以下(到着日・出国日・土日祝日も含みます)で、日本の雇用者から支払われず、日本の支店等が負担しないといった要件をすべて満たすと、日本での出張分の所得税が免除されることがあります(要件は条約ごとに異なります)
- 日本の留守家族の口座に振り込まれる「留守宅手当」について、名称を挙げて個別に扱いを示した国税庁のページは確認できませんでした。上記のとおり支払場所ではなく勤務地で判断するのが原則なので、海外勤務の対価かどうかを会社や税理士に確認してください。赴任先の国で課税されるかどうかは、その国の税法によります
- 国税庁のタックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)では、令和9年分(2027年分)以後、源泉徴収の内訳が所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税になると注記されています
日本に残した自宅・不動産所得と住宅ローン控除
赴任中に日本の自宅を貸す場合など、非居住者に国内の不動産の貸付けによる所得(不動産所得)や国内の不動産の譲渡による所得があるときは、総合課税の対象として日本で確定申告が必要になる場合があります。申告は翌年2月16日から3月15日までの間に、納税管理人を通じて行います。年を通して海外勤務をしている場合も、国内源泉所得の金額が所得控除の合計額を超えれば、原則として確定申告が必要です。
非居住者に国内の不動産の賃料を払う借主は、法人だけでなく個人(事業者かどうかを問いません)も、支払の際に20.42%の源泉徴収をしなければなりません。ただし、自分や親族が住むために借りた個人が支払う賃料は源泉徴収の対象外です。源泉徴収された税額は、確定申告で精算(還付請求)できます。不動産所得の金額の計算方法は居住者と同じです。
赴任中の住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、家族が自宅に残るかどうかで扱いが分かれます。
- 単身赴任で、配偶者や扶養親族など生計を一にする親族が住宅の取得等の日から6か月以内に入居してその後も住み続け、赴任が終われば本人も一緒に住むと認められる場合:平成28年4月1日以後に住宅を取得等したものであれば、本人が居住者か非居住者かにかかわらず控除の対象になります。ただし、出国前の給与所得や出国後の国内の不動産所得など、総合課税の対象となる国内源泉所得がある年分に限られます(海外勤務分の給与は日本で課税されないため、控除できる所得税がない年もあります)
- 平成28年3月31日以前に取得した住宅は、非居住者期間中は控除を受けられません
- 家族全員で赴任して自宅に誰も住まなくなる場合:住まなくなった年以降は控除を受けられません。転任命令などやむを得ない事情があり、住まなくなる日までに「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」を自宅の所在地の所轄税務署長に提出するなどの要件を満たせば、帰任して再び住み始めた年(その年に賃貸していた場合は翌年)以後、残りの控除期間について再適用を受けられます
- 控除期間は赴任期間の分だけ延長されることはありません
- 国税庁は、平成28年4月1日以後に引渡しを受ける住宅であれば、非居住者期間中に購入した住宅でも、他の要件を満たせば控除を受けられると説明しています(令和4年以降に居住を始めた住宅は、タックスアンサーNo.1211-1等の要件も確認してください)
- 日本の不動産の管理や売却全般は、海外移住後の日本の不動産を扱う別のガイドを参照してください
厚生年金・健康保険の継続と社会保障協定の適用証明書
健康保険と厚生年金保険は、適用事業所に勤務する限り、国内に住所があるかどうかを問わず加入します。日本年金機構は、日本の適用事業所との雇用関係が続いたまま海外で勤務し、出向元から給与の一部または全部が支払われている場合は、原則として健康保険・厚生年金保険の加入が継続すると説明しています。海外の事業所から支払われる給与でも、日本の会社の給与規定や出向規定などにより実質的に日本の会社から支払われていると確認できるものは、標準報酬月額の算定の基礎となる報酬に含まれます。
その場合、赴任先の国の社会保障制度にも加入しなければならず、保険料を二重に負担することがあります。これを調整するのが社会保障協定です。日本年金機構によると、2025年12月1日にオーストリアとの協定が発効し、日本は24か国との間で協定が発効しています(英国、韓国、中国、イタリアとの協定は保険料の二重負担防止のみ)。協定相手国へ5年を超えない見込みで派遣される場合は、引き続き日本の制度のみに加入し、相手国の制度への加入が免除されます。
- 免除を受けるには、日本の事業主が年金事務所に「適用証明書交付申請書」を提出し、交付された適用証明書を赴任先の事業所に提出します。申請は就労開始予定日のおおむね6か月前から可能です。厚生年金保険の適用証明書の申請書は、郵送の場合は日本年金機構の社会保障協定担当(東京都調布市)宛てに送ります
- 5年を超えると見込まれる派遣や現地採用の場合は、原則として相手国の制度のみに加入します。この場合、事業主が厚生年金保険・健康保険の資格喪失届(喪失原因「11.社会保障協定」)を提出します
- 予見できない事情で派遣が5年を超える場合は、両国の合意があれば日本の制度への加入を延長できることがあります。事業主が「適用証明期間継続・延長申請書」を提出します。延長の上限は協定ごとに異なります
- 協定によっては、派遣期間の見込みにかかわらず、派遣開始日から5年間は日本の制度のみに加入する仕組みになっています。免除される制度(年金のみか医療保険も含むか)も協定ごとに異なります
- 相手国の年金制度に加入することになった場合でも、厚生年金保険に任意加入できる「特例加入制度」があります
- 介護保険は国内に住所がある人だけが加入するため、住所を海外に移すときは介護保険の加入をやめる手続(介護保険適用除外等該当届)が必要です
- 協定のない国に赴任する場合は、日本と現地の両方の制度に加入することがあります。協定の基本的な仕組みや年金加入期間の通算は、日本の年金を扱う別のガイドを参照してください
同行する家族の扶養と住民税
健康保険の被扶養者と国民年金第3号被保険者の認定には、令和2年4月1日から日本国内に住所を有すること(住民票があること)が要件になっています。ただし、海外赴任に同行する家族などは「海外特例要件」に該当すれば、届出により被扶養者として認定されます。家族が赴任に同行して出国したときは、被扶養者(異動)届または第3号被保険者関係届で届け出ます。添付書類は、査証(ビザ)、海外赴任辞令、海外の公的機関が発行する居住証明書の写しなどです。帰任に伴い家族が帰国したときにも届出が必要です。
個人住民税は、その年の1月1日時点で住所がある市区町村が、前年1月1日から12月31日までの所得をもとに課税します。所得割の税率は10%(道府県民税4%、市町村民税6%)、均等割は4,000円で、令和6年度からは森林環境税(国税)1,000円が均等割とあわせて徴収されています。
- 年の途中で出国しても、その年度の住民税(前年の所得に対するもの)は変わりません。例えば2026年3月に出国した人は、2026年1月1日に住民票があるため2026年度の住民税が課税されます
- 給与から天引き(特別徴収)されていた人は、出国に伴い、最後の給与から年度内の残りを一括で差し引くか、普通徴収(個人納付)に切り替わります
- 出国後に納める住民税がある場合は、市区町村に納税管理人を申告します(地方税法第300条)。届出がないまま出国すると公示送達が行われ、納期限を過ぎると督促や延滞金の対象になることがあります
- 翌年1月1日に国内に住所がなければ、翌年度の住民税は課税されません。赴任中は原則として住民税がかからず、帰任して1月1日に国内に住所がある年度から再び課税されます
- 出国時の住民税の手続の詳細は、住民税を扱う別のガイドを参照してください
帰任したとき:帰国後の給与・年末調整・確定申告
帰国して居住者になると、国内源泉所得に限らずすべての所得が日本で課税されます。帰国後(居住者となった日以後)に支給期が来る給与は、その中に非居住者だった期間の勤務に対応する部分や、海外勤務中が査定期間に含まれる賞与が含まれていても、総額を居住者への給与として源泉徴収します。
年末調整は、帰国日以後に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していれば、帰国日以後その年末までに支給期が来る給与を対象に行います。
- 社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除は、帰国日以後に支払った保険料・掛金が対象です
- 配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、特定親族特別控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除、基礎控除は、国内で勤務する従業員と同じ扱いです(確定申告では12月31日の現況で判定)
- 帰国後の給与収入が2,000万円を超える人や、帰国前の国内源泉所得(総合課税の対象となるもの)と帰国後の給与・退職所得以外の所得の合計が20万円を超える人は、原則として確定申告が必要です。医療費控除などは居住者期間(帰国後)に支払った金額をもとに計算します
- 1年以上の予定で出国し出国時に年末調整を受けた人が、事情により同じ年のうちに帰国した場合は、出国前と帰国後の居住者期間に支払う給与を合計して年末調整を行います
- 納税管理人を選任していた人は、帰国して居住者になったら「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」で解任を届け出ます。住民税の納税管理人も市区町村で解任の手続をします
- 健康保険・厚生年金保険は継続していればそのままですが、介護保険は国内に住所を移したときに再び加入する手続が必要です。社会保障協定で相手国の制度に加入していた人は、年金加入期間の通算を確認しておきましょう
- 帰国時の手続全般は、本帰国を扱う別のガイドを参照してください
- 本ページは制度の一般的な説明で、個別の税務アドバイスではありません。実際の判断や手続は、勤務先の人事・給与担当、税理士、所轄の税務署または年金事務所にご相談ください
よくある質問
Q. 海外赴任中も日本の本社から給与が振り込まれますが、日本の所得税はかかりますか?
A. 1年以上の予定で赴任して非居住者になった従業員の場合、海外での勤務に対する給与は国内源泉所得に当たらず、日本の本社から支払われていても原則として日本の所得税は課税されません。ただし、出国後に支払われる賞与のうち日本で勤務した期間に対応する部分や、一時帰国中の日本での勤務に対応する部分は、20.42%の源泉徴収の対象になります。
Q. 日本の会社の取締役として海外の子会社に赴任します。報酬の扱いは従業員と同じですか?
A. 異なります。内国法人の役員として受ける報酬は、海外勤務に対するものであっても国内源泉所得とされ、20.42%の税率で源泉徴収されます。ただし、海外支店の支店長のように、その内国法人の使用人として常時海外で勤務している場合は源泉徴収の必要はありません。
Q. 出国前の年末調整では、生命保険料控除や扶養控除はどうなりますか?
A. 社会保険料や生命保険料などの保険料控除は、出国の日までに支払った分が対象です。扶養控除や配偶者控除などは出国の時の現況で判定し、配偶者や扶養親族の所得は出国の時の現況でその年1年分を見積もって判断します。年末調整は、1年以上の予定で転勤する人に対して会社が出国の日までに行います。
Q. 社会保障協定がある国に3年間赴任します。現地の年金保険料も払う必要がありますか?
A. 協定相手国へ5年を超えない見込みで派遣される場合は、引き続き日本の制度(厚生年金保険など)のみに加入し、相手国の制度への加入が免除されます。そのためには、日本の事業主が年金事務所に適用証明書の交付を申請し(就労開始予定日のおおむね6か月前から可能)、交付された適用証明書を赴任先の事業所に提出します。免除の対象となる制度は協定ごとに異なります。
Q. 家族を日本に残して単身赴任します。住宅ローン控除は続けられますか?
A. 平成28年4月1日以後に取得等した住宅で、生計を一にする家族が住み続け、赴任が終われば本人も一緒に住むと認められる場合は、非居住者であっても控除の対象になります。ただし、出国前の給与所得や出国後の国内の不動産所得など、総合課税の対象となる国内源泉所得がある年分に限られます。家族全員で赴任して自宅に住まなくなる場合は、事前に届出書を出しておくと、帰任後に残りの控除期間について再適用を受けられることがあります。
Q. 海外赴任中も住民税はかかりますか?
A. 個人住民税は1月1日時点で住所がある市区町村が課税します。出国した年度の住民税(前年の所得に対するもの)は納める必要があり、給与天引きの人は最後の給与からの一括徴収か普通徴収に切り替わります。翌年1月1日に国内に住所がなければ翌年度の住民税は課税されず、赴任中は原則としてかかりません。
出典
本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、税務・法務の助言ではありません。個別の状況については税理士・税務署・年金事務所・市区町村などに確認してください。