海外に移住して日本の非居住者になっても、日本にある不動産を貸して得る賃料や、売却して得る所得は「国内源泉所得」として日本で課税されます。賃料や売却代金は支払う側が源泉徴収するのが原則ですが、借主・買主が自分や親族の住まいとして使う個人の場合などには源泉徴収がありません。このガイドでは、日本に不動産を残して移住する人が押さえておきたい税金と手続きを、国税庁などの案内に沿って整理します。
非居住者になっても日本の不動産の所得は日本で申告する
国税庁は、1年以上の予定で海外の支店などに勤務する給与所得者は、一般的には日本国内に住所を有しない者と推定され、所得税法上の非居住者になると説明しています。非居住者は、日本国内で生じた所得(国内源泉所得)についてのみ日本の所得税が課税されます。
国内にある不動産の貸付けによる対価(不動産所得)と、国内にある不動産の譲渡による所得は、どちらも国内源泉所得です。これらは総合課税(土地・建物の譲渡所得は申告分離課税)の方法で税額を計算し、確定申告をする必要があります。非居住者期間中の不動産所得の計算方法は、居住者の場合と同じです。
確定申告の期間は、原則として翌年2月16日から3月15日までです。申告の流れは、出国した年かどうかや納税管理人を指定したかどうかで次のように分かれます。
- 年の途中で出国し、出国の時までに納税管理人を指定した場合:1月1日から出国日までのすべての所得と、出国後に生じた国内源泉所得を合計して、翌年2月16日から3月15日までに納税管理人を通じて確定申告・納税します
- 納税管理人を指定せずに出国する場合:出国の時までに、居住者期間の所得について準確定申告をします。出国後に国内源泉所得(賃料など)がある場合は、居住者期間と非居住者期間の所得を合計して、翌年2月16日から3月15日までに納税管理人を通じて改めて確定申告します
- 年を通じて海外に住んでいる場合:国内源泉所得の金額が所得控除の合計額を超えるときは、原則として翌年2月16日から3月15日までに納税管理人を通じて確定申告します
- 非居住者期間に使える所得控除は限られます。雑損控除(国内にある資産の損失に限ります)、寄附金控除、基礎控除は適用できますが、医療費控除や社会保険料控除などは居住者期間に支払った金額が基礎になります
- 確定申告が必要な非居住者は、納税管理人(申告書の提出や納税を本人に代わって行う人。個人でも法人でも可)を定め、「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」を納税地の所轄税務署長に提出します。提出時期は、納税管理人を定めたとき、または出国の日までです
賃貸収入:借主による20.42%の源泉徴収と例外
日本国内にある不動産の賃料を非居住者に支払う人は、支払の際に20.42%の税率で所得税と復興特別所得税を源泉徴収し、原則として支払った月の翌月10日までに納付する必要があります。源泉徴収義務は法人だけでなく、事業を行っていない個人にもあります。
ただし、土地や家屋を自分または親族の居住の用に供するために借りている個人が支払う賃料については、源泉徴収は不要です。つまり、個人が自宅として借りている場合は源泉徴収されず、法人が社宅として借りる場合や、個人が事務所・店舗として借りる場合などは源泉徴収の対象になります。
源泉徴収された税額は、確定申告で精算します。源泉徴収税額が納めるべき税額より多ければ、申告によって還付を受けることができます。源泉徴収されない場合でも、確定申告が必要なことに変わりはありません。
令和9年(2027年)分以後は、源泉徴収の対象が所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税になります。国税庁によると、防衛特別所得税(所得税額の1%)の創設と同時に復興特別所得税の税率が2.1%から1.1%に引き下げられるため、合計の税率は変わらず、賃料は20.42%、譲渡対価は10.21%のままです。
借主側に源泉徴収義務があるため、非居住者になったことを借主や管理会社に早めに伝え、源泉徴収の要否を確認しておくことが大切です。借主が国内に住所や事務所を持つ場合は、賃料を海外の口座に振り込むときも国内で支払ったものとみなされ、源泉徴収の対象になります(納期限は翌月末日)。
不動産所得の計算:必要経費と青色申告の基本
不動産所得の金額は「総収入金額-必要経費」で計算します。総収入金額には賃料のほか、更新料や礼金、返還を要しない敷金・保証金、共益費として受け取る電気代・水道代なども含まれます。
必要経費にできるのは、不動産収入を得るために直接必要な費用のうち、家事上の費用と明確に区分できるものです。国税庁は主なものとして、貸している資産に係る固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費を挙げています。管理会社への委託料などを含め、領収書や契約書は保存しておきましょう。
不動産所得がある人は青色申告を選ぶことができます。新たに青色申告をする場合は、原則として青色申告をしようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に新たに業務を始めた場合は、業務開始日から2か月以内)に「青色申告承認申請書」を所轄税務署長に提出します。
青色申告特別控除は、不動産の貸付けが事業として行われている場合(建物の貸付けでは、おおむね独立した10室以上またはおおむね5棟以上が目安)に、正規の簿記で記帳するなどの要件を満たせば最高55万円、さらに電子帳簿保存またはe-Taxによる申告をすれば最高65万円です。それ以外の青色申告者は最高10万円です。控除額や要件は見直されることがあるため、申告する年分の国税庁の案内を確認してください。
売却したとき:譲渡所得と買主による10.21%の源泉徴収
非居住者が日本国内の土地・建物を売却して得た所得は譲渡所得となり、原則として確定申告が必要です。計算方法は居住者と同じで、「収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額」で課税譲渡所得金額を求めます。売却代金とは別に、譲渡の日から年末までの期間に対応する固定資産税・都市計画税相当額(いわゆる精算金)を買主から受け取った場合は、その額も収入金額に含まれます。
土地・建物の譲渡所得は他の所得と分けて課税されます。売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える場合は長期譲渡所得として15%、5年以下の場合は短期譲渡所得として30%の所得税がかかり、あわせて復興特別所得税(令和9年分以後は防衛特別所得税も)を申告・納付します。
非居住者から国内の土地・建物を購入して代金を支払う人は、原則として支払金額の10.21%を源泉徴収し、支払った月の翌月10日までに納付します。ただし、個人が自分または親族の居住の用に供するために購入し、かつ譲渡対価が1億円以下の場合は、源泉徴収は不要です。法人が買主の場合や、個人でも投資用として購入する場合、譲渡対価が1億円を超える場合は源泉徴収の対象になります。
源泉徴収された税額は確定申告で精算され、納めすぎであれば還付を受けられます。売却代金の約1割が差し引かれるため、仲介会社や買主と決済方法を事前に確認しておきましょう。
住んでいた自宅を売るとき:3,000万円特別控除の期限と非居住者の扱い
マイホーム(居住用財産)を売ったときは、所有期間の長短に関係なく、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります(租税特別措置法第35条)。海外移住で住まなくなった家でも、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売れば対象になり得ます。例えば2026年中に住まなくなった場合は、2029年12月31日までの売却が期限です。この期間を過ぎると特例は受けられません。
国税庁の案内では、以前に住んでいた家屋は、住まなくなった日以後どのような用途に使ってもかまわないとされています。移住後に賃貸に出していても、期限内に売却すれば対象になり得ます。一方、家屋を取り壊して敷地だけを売る場合は、取壊しから1年以内に譲渡契約を結び、その間に敷地を貸駐車場などに使っていないことなど、別の要件があります。
非居住者が売却する場合について、根拠となる租税特別措置法第35条は適用対象を「個人」と定めており、No.3302などの国税庁の案内にも非居住者を除外する記載はありません。ただし、非居住者による売却への適用可否を正面から説明した国税庁の資料は見当たらないため、海外在住中に売却する場合は、事前に税務署や税理士に確認することをおすすめします。
このほか、主な要件と注意点は次のとおりです。
- 売った家屋は、自分が所有者として住んでいたものであること
- 親子や夫婦、生計を一にする親族、売却後にその家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人など「特別の関係がある人」への売却ではないこと
- 売った年の前年・前々年にこの特例(被相続人の居住用財産の特例による場合を除く)やマイホームの譲渡損失の特例を受けていないこと。売った年・前年・前々年にマイホームの買換えや交換の特例を受けていないこと
- 別荘など主に趣味・娯楽・保養のための家屋や、特例を受けるためだけに入居した家屋などは対象外です
- 特例を受けるには、一定の書類を添えて確定申告をする必要があります。売買契約日の前日時点の住民票の住所と売った家屋の所在地が異なる場合などは、戸籍の附票の写しなど、その家屋に住んでいたことを明らかにする書類もあわせて提出します
- 本人が転勤などで単身で別の場所に住み、配偶者などが住み続けている家屋は、事情がなくなれば一緒に住むと認められる場合に、本人が住んでいる家屋として特例の対象になり得ます
固定資産税・都市計画税、住民税、住宅ローン控除
固定資産税は、毎年1月1日(賦課期日)時点で土地・家屋の所有者として固定資産課税台帳に登録されている人に、市町村(東京23区は東京都)が課税します。都市計画税も、市街化区域内などの土地・家屋の所有者に課される税です。海外に住んでいても所有者である限り課税され、納期は原則として4月・7月・12月・2月の中で市町村の条例で定められます。
地方税法第355条により、固定資産税の納税義務者が市町村内に住所等を持たない場合は、納税管理人を定めて市町村長に申告することとされています(徴収に支障がない旨の認定を受けた場合を除きます)。所得税の納税管理人とは別の手続なので、不動産のある市区町村の税務担当で手続方法を確認してください。
個人住民税は1月1日時点で市区町村に住所がある人に課税されるため、翌年1月1日に国内に住所がなければ、その年の賃料や売却益に対する住民税は原則としてかかりません。ただし地方税法第294条には、市町村内に家屋敷を持ち住所を持たない個人に均等割を課す規定があるため、自宅を残して移住する場合の扱いは市区町村に確認してください。
住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)は、その年の12月31日まで引き続き住んでいることが要件の一つです。家族と一緒に家を出て海外に住む期間は、原則として適用を受けられません。国税庁No.1234では、転勤など次のような場合の扱いが示されています。
- 本人だけが単身で海外に赴任し、生計を一にする家族が住み続ける場合:平成28年4月1日以後に住宅を取得等したときは、本人が非居住者であっても適用を受けられます。ただし、居住期間中の給与所得や出国後の国内不動産所得など、総合課税の対象となる国内源泉所得がある年分に限られます(平成28年3月31日以前の取得等は、非居住者期間中は適用されません)
- 家族と共に家を出た後、帰国して再び住む場合:勤務先からの転任の命令その他これに準ずるやむを得ない事由があり、家を出る日までに「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」などを提出していれば、再び住んだ年(その年に賃貸していた場合は翌年)以後、残りの控除期間について再適用を受けられます
- 控除期間は延長されないため、再適用できるのは残存控除期間がある場合に限られます。自分の意思による移住が「やむを得ない事由」に当たるかどうかは個別の判断になるため、出国前に税務署に確認してください
- マイホームを売って3,000万円特別控除を受けた場合、新しい住宅に入居した年やその前年・前々年などに特例を受けていると、住宅ローン控除を受けられないことがあります
居住地国でも課税される可能性と二重課税の調整
日本の不動産から生じる賃料や売却益は、日本で課税されるだけでなく、移住先の国でも課税される場合があります。多くの国は自国の居住者に対して国外の所得も含めて課税するためです。どのような所得が、いつ、どの税率で課税されるかは国ごとに異なるため、移住先の税制を確認してください。
国税庁は、多くの租税条約で、土地などの不動産から生じる賃貸料については不動産の所在地国が課税できるとされていると説明しています。日本と移住先の国の双方で課税される場合、二重課税は一般に居住地国側の外国税額控除などの仕組みで調整されます。調整の方法や必要な書類は国や租税条約によって異なるため、日本で納めた税額がわかる申告書の控えや源泉徴収の記録を保管しておきましょう。
帰国して日本の居住者に戻った後に外国の不動産などから所得が生じ、外国で所得税を納めた場合は、日本の外国税額控除(控除限度額の範囲内)を受けられることがあります。
手続きチェックリスト
日本に不動産を残して移住する人が確認したい項目をまとめます。本ページは制度の一般的な説明で、個別の税務アドバイスではありません。適用の可否や具体的な手続は、税理士または所轄の税務署・市区町村にご相談ください。
- 出国前:所得税の納税管理人を決め、「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」を出国の日までに税務署へ提出する
- 出国前:固定資産税・都市計画税の納税管理人を、不動産のある市区町村に申告する(納付方法も確認する)
- 出国前:住宅ローン控除を受けている場合は、再適用の要件と「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」の要否を確認する
- 賃貸する場合:借主が法人か個人か、自宅用かを確認し、20.42%の源泉徴収の要否を借主・管理会社と共有する
- 賃貸中:賃料、更新料、経費の領収書、源泉徴収の記録を保管し、毎年2月16日から3月15日までに納税管理人を通じて確定申告する
- 青色申告を選ぶ場合:原則として適用を受けたい年の3月15日までに青色申告承認申請書を提出する
- 売却する場合:買主が法人か、自宅用の個人か、譲渡対価が1億円以下かを確認し、10.21%の源泉徴収の有無を把握する
- 元の自宅を売る場合:住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売れるか、特別の関係がある人への売却でないかを確認する
- 売却した翌年:譲渡所得の確定申告をし、源泉徴収された税額を精算する。特例を受ける場合は戸籍の附票など居住の事実を示す書類も準備する
- 移住先:日本の不動産所得・譲渡所得が移住先の国で課税されるか、外国税額控除などで二重課税を調整できるかを確認する
よくある質問
Q. 海外に住んでいて、日本のマンションを個人の借主に自宅として貸しています。源泉徴収されていませんが、申告は不要ですか?
A. 自分または親族の住まいとして借りている個人が支払う賃料は源泉徴収の対象外ですが、確定申告が不要になるわけではありません。国内の不動産の賃料は非居住者でも国内源泉所得として総合課税され、国内源泉所得の金額が所得控除の合計額を超える場合などは、納税管理人を通じて翌年2月16日から3月15日までに確定申告する必要があります。
Q. 借主が法人(社宅)の場合、源泉徴収された20.42%で納税は終わりますか?
A. 終わりません。非居住者の不動産所得は確定申告で税額を計算し、源泉徴収された税額を差し引いて精算します。納めすぎの場合は、確定申告によって還付を受けることができます。
Q. 海外在住のまま日本の自宅を売ると、必ず10.21%差し引かれますか?
A. 原則として買主が10.21%を源泉徴収します。ただし、個人が自分または親族の住まいとして購入し、譲渡対価が1億円以下の場合は源泉徴収は不要です。どちらの場合も、売った翌年に譲渡所得の確定申告が必要です。
Q. 移住して住まなくなった家を賃貸に出しています。売るときに3,000万円特別控除は使えますか?
A. 国税庁の案内では、以前に住んでいた家屋は住まなくなった日以後どのような用途に使ってもかまわないとされており、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売るなどの要件を満たせば対象になり得ます。非居住者による売却への適用を明示した国税庁の資料は見当たらないため、事前に税務署や税理士に確認してください。
Q. 海外にいる間も日本の住宅ローン控除を受けられますか?
A. 家族と一緒に家を出て海外に住む期間は、原則として受けられません。本人だけが単身で赴任し家族が住み続ける場合は、平成28年4月1日以後の取得等であれば、総合課税の対象となる国内源泉所得がある年分に限り適用を受けられます。帰国後に再び住む場合の再適用には、転任の命令などのやむを得ない事由と、出国前の届出などの要件があります。
出典
本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、税務・法務の助言ではありません。個別の状況については税理士・税務署・年金事務所・市区町村などに確認してください。