日本国籍の人が亡くなった場合、どこに住んでいても相続は原則として日本法で処理されます(法の適用に関する通則法第36条)。一方、遺言の方式は行為地法や本国法など複数の法のどれかに合っていれば有効なので、海外在住者は日本式の遺言と現地の遺言のどちらも選べます。このガイドでは、法務省・日本公証人連合会・e-Gov法令検索で確認できる範囲で、海外在住者が日本の財産について遺言を残す方法、海外で作った遺言の日本での扱い、相続人に残しておくべき情報、相続開始後に海外在住の相続人が使う制度を整理します。相続税の納税義務や国外財産の課税範囲は、別ガイド「海外移住しても相続税・贈与税はかかる?」をご覧ください。
海外移住ガイド ›
海外在住者の遺言書の作り方と相続の備え:準拠法・法務局保管・公正証書・在外公館(2026年)
最終確認: 2026-10(公的機関の情報をもとに作成)
海外在住でも相続は日本法? 準拠法の基本
国際的な相続で「どの国の法律で決めるか」を定めているのが、法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号)です。第36条は「相続は、被相続人の本国法による」と定めており、亡くなった人が日本国籍なら、長年海外に住んでいても、日本の裁判所や法務局・金融機関では日本の民法に従って相続人の範囲や法定相続分、遺留分などが判断されます。第37条により、遺言の成立と効力(遺言能力や遺言の有効性など)も、遺言をした当時の遺言者の本国法によります。
日本国籍と外国籍を併せ持つ重国籍の人は、第38条第1項ただし書により、国籍のうち一つが日本国籍であれば日本法が本国法になります。外国籍の配偶者など本国法が外国法になる人については、その国の法が「住所地法や財産所在地法による」としている場合に日本法に戻ってくる反致(第41条)や、不動産などの物権はその所在地法によるという第13条も関係します。相続人や財産が複数の国にまたがる場合、相手国の裁判所や登記機関が日本と同じ結論を採るとは限らないため、現地法での取扱いは現地の専門家に確認する必要があります。
遺言の「方式」(自筆か公正証書か、証人は何人か、署名・押印はどうするかなど形式面)については、遺言の方式の準拠法に関する法律(昭和39年法律第100号)第2条が、次のいずれかの法に適合していれば方式上有効と定めています。
- 行為地法(遺言を作成した場所の法)
- 遺言者が遺言の成立または死亡の当時に国籍を有した国の法
- 遺言者が遺言の成立または死亡の当時に住所を有した地の法
- 遺言者が遺言の成立または死亡の当時に常居所を有した地の法
- 不動産に関する遺言については、その不動産の所在地法
- 遺言者の年齢や国籍などによる方式の制限、証人の資格も「方式」に含まれます(同法第5条)
日本式の遺言(1)自筆証書遺言と法務局の保管制度:海外在住者は本人出頭が壁
自筆証書遺言は、遺言者が全文・日付・氏名を自書して押印すれば、費用をかけずにいつでも作れる遺言です(民法第968条第1項)。2019年1月13日以降は、遺言書と一体の財産目録に限り自書でなくてもよいとされましたが、目録の各ページに署名・押印が必要です(同条第2項)。加除訂正の方式も厳格で(同条第3項)、方式不備で無効になるリスクがある点は日本公証人連合会も注意を促しています。
自筆証書遺言の弱点(紛失、改ざん、発見されない、家庭裁判所の検認が必要)を補うのが、法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)による自筆証書遺言書保管制度で、2020年7月10日に始まりました。保管された遺言書は家庭裁判所の検認が不要になり、相続開始後は相続人等が全国どこの遺言書保管所(法務局)でも遺言書情報証明書の交付やモニター閲覧を請求できます。原本は遺言者の死亡後50年、画像データは150年保管されます。
海外在住者にとっての最大の制約は、保管の申請は遺言者本人が遺言書保管所に自ら出頭しなければならないことです(同法第4条第6項)。法務省は代理人や郵送による申請はできないと明記しており、病気で出頭できない場合も制度を利用できないとしています。したがって、海外在住者が使うには一時帰国時に法務局へ行く必要があります。法務省のよくある質問(Q15)では、外国に住む日本人(日本国籍)が保管を申請する場合、住所の証明としてお住まいの国の在外公館で発行された在留証明書を用意するよう案内しています。東京法務局は、在留証明書には本籍地は載るが戸籍の筆頭者は載らないため、戸籍謄本もあわせて用意するよう案内しています。
手続の要点は次のとおりです。
- 申請先は、遺言者の住所地、本籍地、遺言者が所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所。海外在住で日本に住所がなくても、本籍地や日本の不動産所在地を基準に選べます。2通目以降は最初に預けた保管所にしか申請できません
- 手続はすべて予約制。予約した日時に遺言者本人が来庁し、遺言書(ホチキス止めせず封筒にも入れない)、保管申請書、添付書類、顔写真付きの官公署発行の身分証明書(運転免許証、マイナンバーカードなど)、手数料を持参します
- 遺言書を外国語で作成した場合は、日本語による翻訳文の添付が必要です
- 手数料は遺言書1通につき3,900円(収入印紙)。モニター閲覧は1回1,400円、原本閲覧は1回1,700円、遺言書情報証明書は1通1,400円、遺言書保管事実証明書は1通800円。保管の申請の撤回と変更の届出は無料です
- 手続後に渡される保管証は再発行されません。保管証の写しを家族に渡しておくと、相続開始後の請求がスムーズです
- 遺言者が希望すれば、死亡の事実が確認できた時点で、あらかじめ指定した人(遺言者1名につき3名まで)に法務局から通知が届きます。また、相続人の一人が閲覧や証明書の交付を受けると、他の相続人全員に遺言書が保管されている旨が通知されます
- 保管後に遺言者・受遺者・遺言執行者などの住所や氏名が変わったときは、変更の届出が必要です。海外で転居を繰り返す人は特に忘れやすい点です
- 保管所では遺言書の形式面の外形的なチェックは受けられますが、内容の相談には応じてもらえず、遺言の有効性も保証されません
日本式の遺言(2)公正証書遺言と在外公館での遺言:証人2人、2025年10月からデジタル化
公正証書遺言は、証人2人以上の立会いのもと、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授して作成する遺言です(民法第969条)。公証人が関与するため方式不備で無効になるおそれがなく、原本は公証役場に保管され、家庭裁判所の検認も不要です(第1004条第2項)。未成年者、推定相続人・受遺者とその配偶者・直系血族、公証人の配偶者・4親等内の親族・書記・使用人は証人になれません(第974条)。適当な証人がいなければ公証役場で紹介を受けられます。
本人確認書類としては印鑑登録証明書(発行後3か月以内)が原則ですが、日本公証人連合会は、運転免許証、旅券、マイナンバーカードなど官公署発行の顔写真付き身分証明書で代用できると案内しています。日本に住民登録がなく印鑑登録証明書が取れない海外在住者は、旅券などで本人確認を受けることになります。このほか、遺言者と相続人の続柄がわかる戸籍謄本、相続人以外に遺贈する場合は受遺者の住民票など、不動産がある場合は登記事項証明書と固定資産評価証明書、預貯金は通帳のコピーなどを準備します。
手数料は公証人手数料令で定められ、受遺者ごとの財産の価額を基準表に当てはめて算出し合算します。たとえば100万円超200万円以下は7,000円、1,000万円超3,000万円以下は2万6,000円、5,000万円超1億円以下は4万9,000円で、遺言公正証書は目的の価額が1億円以下の場合に1万3,000円の遺言加算が加わります。相談は無料です。病床などへの出張作成も可能ですが、手数料の割増しや日当・交通費がかかります。
海外にいる間に日本式の公正証書遺言を作る道として、民法第984条(外国に在る日本人の遺言の方式)は「日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事が行う」と定めています。日本の大使館・総領事館の領事が公証人の代わりとなり、公正証書遺言または秘密証書遺言を作成できる仕組みで、秘密証書遺言について第970条第1項第4号が求める遺言者と証人の押印は不要とされています。第969条の方式はそのまま適用されるため証人2人以上の立会いが必要で、第974条の欠格事由も同じです。在外公館で作成した公正証書遺言も日本法上は公正証書遺言なので、家庭裁判所の検認は不要です。
ただし、外務省および各在外公館のウェブサイトは本ガイド作成時点で自動アクセスがすべて拒否されたため、在外公館における遺言公証事務の具体的な取扱い(対応している公館、証人を紹介してもらえるか、必要書類、手数料、予約方法、所要日数)は確認できていません。海外では証人の確保が難しいことも多いため、利用を検討する場合は管轄の在外公館の領事窓口に直接問い合わせてください。
国内の公証役場については、2025年10月1日から、公証人法の改正により公正証書の作成手続がデジタル化されました。日本公証人連合会と法務省の資料によれば、主な変更点は次のとおりです。ただし、ウェブ会議方式に海外から参加できるかどうかは、確認できた公式資料には明記されていません。海外在住者が一時帰国せずに公正証書遺言を作りたい場合は、利用したい公証役場に事前に可否を確認してください。
- 公正証書は原則として電子データで作成・保存され、嘱託人は電子ペンでディスプレイなどに手書きする電子サインのみで押印は不要になりました。公証人は電子サインと電子署名を行います
- 嘱託(申請)は、電子署名・電子証明書を付した電子データをメールで送ることで、公証役場に出頭せずに行えるようになりました
- ウェブ会議(リモート方式)による作成は、嘱託人または代理人の申出があり、他の嘱託人に異議がなく、公証人が本人確認・真意確認・判断能力の確認のしやすさなどを総合的に考慮して相当と認めた場合に限られます。2025年10月1日以降、順次指定される指定公証人の役場でのみ利用できます
- リモート参加には、ウェブ会議に参加できるパソコン(スマートフォンやタブレットは不可)、タッチ入力可能なディスプレイまたはペンタブレットと電子ペン、メールアドレスが必要です
- 正本・謄本に相当する証明情報は、電子データでの提供(1通2,500円)と紙の書面での交付(用紙1枚300円)のどちらも選べます
- 日本公証人連合会の遺言Q&Aでは、離島や感染症対策などで出張が困難な場合に、本人確認や遺言意思の確認に支障がないと公証人が認めればウェブ会議で面談して作成できるとされていますが、海外在住を理由とする利用については記載がありません
- 平成元年以降に作成された公正証書遺言は日本公証人連合会で情報管理されており、遺言者の死亡後は相続人などの利害関係人が全国どの公証役場でも無料で遺言の有無と保管公証役場を検索できます。遺言者の生存中は本人しか検索できません
海外で作った遺言と日本の財産、遺言を複数作るときの注意(後の遺言が前の遺言を取り消す)
居住国の方式(たとえば現地の弁護士や公証人の関与する遺言、現地法上の証人立会いによる遺言)で作った遺言は、遺言の方式の準拠法に関する法律第2条により、行為地法や住所地法などに適合していれば日本でも方式上は有効です。日本国籍の人の場合、遺言の内容が有効かどうか(第37条)や相続の実体(第36条)は日本の民法で判断されます。
ただし、日本の不動産登記や金融機関の相続手続で使う場面では、実務上の負担が大きくなります。外国語の遺言には日本語訳が必要になり、提出先によっては現地の公証人による認証や領事認証などを求められることがあります。また、公正証書遺言と法務局保管の自筆証書遺言以外の遺言書は、民法第1004条により、保管者または発見した相続人が遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に提出して検認を受ける必要があります。検認は遺言の有効・無効を判断する手続ではなく、相続人に遺言の存在と内容を知らせ、偽造・変造を防ぐためのもので、戸籍一式などの提出が必要です。
海外の財産については、通則法第13条により不動産の物権はその所在地法によるため、現地の不動産の名義変更手続は現地の制度に従います。日本の公正証書遺言が現地でそのまま使えるか、現地の裁判所での手続(検認に相当する手続)が必要か、現地法で日本の遺留分に相当する強制相続分や配偶者の権利がどう扱われるかは国によって大きく異なるため、ここでは一般化せず、現地の専門家に確認することをおすすめします。
実務上よく採られるのは、日本の財産については日本式(公正証書または法務局保管の自筆証書)の遺言を、居住国の財産については現地法の遺言を、それぞれ作る方法です。この場合は次の点に注意してください。
民法第1022条により、遺言者は遺言の方式に従っていつでも遺言の全部または一部を撤回できます。そして第1023条第1項は「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす」と定めています。日本法が準拠法となる日本国籍の人が、日本の財産用と居住国の財産用に別々の遺言を作る場合、後から作った遺言に「本遺言者のすべての財産を」や「従前の遺言をすべて撤回する」といった包括的な文言があると、先に作った遺言が取り消されたと扱われるおそれがあります。多くの国の遺言のひな形には従前の遺言をすべて取り消す定型句が入っているため、特に注意が必要です。
対策としては、それぞれの遺言で対象とする財産の範囲(日本国内にある財産、または特定の国にある財産)を明記し、他方の遺言を取り消す意図がないことを明示することが考えられます。日付の前後関係も重要なので、両方の遺言の作成日と内容を一覧にして相続人に伝わるようにしておきます。既存の遺言を書き換える場合、法務局保管の自筆証書遺言は保管の申請を撤回して返還を受け、古いものを廃棄してから新しいものを預け直す方法を法務省は推奨しています。
日本法では、2人以上の者が同一の証書で遺言することはできません(民法第975条、共同遺言の禁止)。夫婦で1通の遺言を作れる国に住んでいる場合、その方式が日本法上どう評価されるかは準拠法の判断に関わる論点なので、日本の財産については夫婦それぞれが別々に遺言を作っておくほうが確実です。
相続が開始した後に、日本法上の遺言の効力や抵触の有無を争うことになると、海外在住の相続人にとって時間も費用もかかります。複数の遺言を持つ場合は、日本の弁護士・司法書士など専門家と現地の専門家の双方に、相互の遺言の文言を確認してもらうことをおすすめします。
遺留分と配偶者居住権:日本法が準拠法になるときの前提知識
日本法が相続の準拠法になる場合、遺言で財産の行き先を自由に決められるといっても、兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子、直系尊属)には遺留分があります(民法第1042条)。遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人の場合は遺留分算定の基礎となる財産の3分の1、それ以外の場合は2分の1で、相続人が複数いるときはこれに各自の法定相続分を乗じます。2019年7月1日以後に開始した相続では、遺留分を侵害された人は受遺者や受贈者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する権利を持ちます(第1046条)。現物の共有状態が生じる旧制度と異なり、金銭での精算になります。
遺留分侵害額請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年、相続開始から10年で消滅します(第1048条)。相続開始前に遺留分を放棄するには家庭裁判所の許可が必要です(第1049条)。たとえば海外に住む子に外国の財産を、日本に住む子に日本の財産を遺すといった分け方をする場合、国ごとの財産評価のずれから遺留分侵害が生じる可能性があることを念頭に置いてください。
配偶者居住権は、2020年4月1日に施行された制度で、被相続人の財産に属した建物に相続開始時に居住していた配偶者が、遺産分割または遺贈により、その建物を無償で使用・収益できる権利です(民法第1028条)。被相続人が相続開始時にその建物を配偶者以外の人と共有していた場合は取得できません。遺言で配偶者居住権を遺贈する選択肢がありますが、対象となるのは日本の民法上の権利であり、海外にある自宅については現地法の問題になるため、ここでは一般化できません。
遺留分や配偶者の権利に相当する制度は国によって内容が大きく異なり、居住国の裁判所が日本法と異なる判断をする可能性があります。相続人や財産が複数の国にまたがる場合は、日本法上の整理と現地法上の整理を分けて専門家に相談してください。
相続人に残しておく情報:エンディングノート・国外財産調書の控え・デジタル資産
遺言を作っても、相続人がその存在と財産の所在を知らなければ機能しません。海外在住者は特に、日本と居住国の両方に財産や契約が分散しやすいため、エンディングノートなどの形で、次のような情報を整理し、信頼できる家族や遺言執行者に所在を伝えておくことをおすすめします。エンディングノート自体には遺言としての法的効力はなく、財産の分け方を拘束したいなら遺言の方式に従う必要があります。
- 遺言の種類と保管場所:法務局保管なら保管証の写し(保管所名と保管番号)、公正証書なら作成した公証役場名と作成年、現地法の遺言なら保管している弁護士・公証人の連絡先
- 日本の財産一覧:不動産の所在と登記情報、金融機関名・支店・口座種別、証券口座、保険契約、年金の受給状況。日本に住所のある家族が国外財産調書(12月31日時点の国外財産の合計が5,000万円を超える居住者が翌年6月30日までに提出)を出している場合は、その控えが国外財産の一覧として役立ちます
- 居住国の財産一覧:銀行口座、年金・退職金口座、不動産、生命保険の受取人指定(受取人指定が遺言に優先する国もあります)
- デジタル資産:ネット銀行・ネット証券・暗号資産のアカウント、サブスクリプション契約、主要なメールアドレスとスマートフォンのロック解除方法。パスワードそのものは遺言書に書かず、別に安全な方法で管理し、その所在だけを伝える方法が一般的です
- 在外公館で取得できる書類(在留証明、署名証明)の取り方と、日本に住民登録がないため印鑑登録証明書が取れないことを、日本側の相続人にも共有しておく
法定相続情報証明制度と、海外在住の相続人
相続が始まった後、日本の不動産登記、預貯金の払戻し、相続税の申告、年金関係の手続では、被相続人の出生から死亡までの戸除籍謄本一式を提出先ごとに出す必要があります。2017年(平成29年)5月に始まった法定相続情報証明制度を使うと、登記所(法務局)に戸除籍謄本の束と相続関係を一覧にした図を提出することで、登記官の認証文付きの「法定相続情報一覧図の写し」を無料で交付してもらえます。以後は戸籍の束の代わりにこの写しを各手続で使えます(利用できるかどうかは提出先に確認が必要です)。
申出ができるのは被相続人の相続人(またはその相続人)で、親族のほか、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士に代理を依頼できます。申出先は、被相続人の死亡時の本籍地、被相続人の最後の住所地、申出人の住所地、被相続人名義の不動産の所在地のいずれかを管轄する登記所で、窓口のほか郵送でも申出と交付を受けられます。海外在住の相続人が申出人になる場合は、自分の住所地の登記所という選択肢は使えないため、被相続人の本籍地や最後の住所地、不動産所在地の登記所を選び、日本の親族や専門家に代理を頼むのが現実的です。
申出人の本人確認書類は、運転免許証やマイナンバーカード、住民票記載事項証明書など氏名と住所が確認できる書類とされています。日本に住所がない相続人の本人確認書類や住所証明として何が使えるかは、法務局の案内に個別の記載がないため、申出先の登記所に事前に確認してください。一覧図の原本は申出の翌年から5年間保管され、再交付を請求できるのは当初の申出人だけです。被相続人または相続人の中に日本国籍を持たず戸除籍謄本を提出できない人がいる場合は、この制度は利用できません。
遺産分割協議書に押す印鑑登録証明書の代わりとなる署名証明(在外公館で領事の面前で署名)、住所を証明する在留証明の取り方、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)、納税管理人の届出については、別ガイド「海外移住しても相続税・贈与税はかかる?」で解説しています。本ページは制度の一般的な説明で、個別の法律・税務アドバイスではありません。実際の遺言作成や相続手続は、弁護士・司法書士・税理士などの専門家、公証役場、法務局、管轄の在外公館にご相談ください。
よくある質問
Q. 海外に20年住んでいますが、私が亡くなったとき日本の実家の相続は日本法で決まりますか?
A. 日本国籍であれば、法の適用に関する通則法第36条により相続は本国法である日本法によります。居住年数は関係ありません。日本国籍と外国籍の重国籍の場合も、第38条第1項ただし書により日本法が本国法になります。ただし、居住国の裁判所や登記機関が現地の財産について日本法を適用するとは限らないため、現地の財産の扱いは現地法の確認が必要です。
Q. 海外在住のままで、法務局の自筆証書遺言書保管制度は使えますか?
A. 保管の申請は遺言者本人が遺言書保管所に自ら出頭する必要があり(遺言書保管法第4条第6項)、代理人や郵送による申請はできません。このため一時帰国時に手続をすることになります。申請先は住所地・本籍地・所有不動産の所在地のいずれかを管轄する保管所で、海外在住者は本籍地や日本の不動産所在地を基準に選べます。住所の証明には在外公館発行の在留証明書を用意するよう法務省が案内しており、東京法務局は戸籍の筆頭者を確認するため戸籍謄本もあわせて用意するよう案内しています。手数料は1通3,900円です。
Q. 2025年10月からの公正証書のデジタル化で、海外からウェブ会議で公正証書遺言を作れますか?
A. 2025年10月1日から、嘱託人の希望があり公証人が相当と認める場合に、ウェブ会議(リモート方式)で公正証書を作成できるようになりました。ただし利用できるのは順次指定される指定公証人の役場に限られ、本人確認・真意確認のしやすさなどを総合的に考慮して公証人が判断します。海外からの参加が可能かどうかは、確認できた日本公証人連合会・法務省の資料には明記されていません。利用したい公証役場に事前に確認してください。対面で作る場合、本人確認は印鑑登録証明書のほか旅券などの顔写真付き身分証明書でも可能で、証人2人が必要です。
Q. 現地の弁護士に作ってもらった英語の遺言は、日本の不動産や預金の手続に使えますか?
A. 遺言の方式の準拠法に関する法律第2条により、行為地法や住所地法などに適合した方式の遺言は日本でも方式上有効です。ただし、日本の法務局や金融機関の手続では日本語訳が必要になり、提出先によっては現地での認証などを求められることがあります。また、公正証書遺言と法務局保管の自筆証書遺言以外の遺言書は、民法第1004条により家庭裁判所の検認が必要です。日本の財産については、日本式の公正証書遺言などを別に作っておくほうが手続は円滑です。
Q. 日本の財産用と居住国の財産用に遺言を2通作りたいのですが、注意点は?
A. 民法第1023条第1項により、前の遺言と後の遺言が抵触する部分は、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。後から作る遺言に「すべての財産」や「従前の遺言をすべて撤回する」といった包括的な文言があると、先に作った遺言が取り消されたと扱われるおそれがあります。それぞれの遺言で対象とする財産の範囲(国)を明記し、他方を取り消す意図がないことを明示したうえで、日本と現地の専門家の双方に文言を確認してもらってください。また日本法では共同遺言は禁止されています(第975条)。
Q. 相続人が海外にいる場合、法定相続情報証明制度は利用できますか?
A. 利用できます。申出先は被相続人の死亡時の本籍地、最後の住所地、申出人の住所地、被相続人名義の不動産の所在地のいずれかを管轄する登記所で、郵送でも手続でき、親族や司法書士・弁護士などに代理を依頼できます。一覧図の写しは無料で、相続登記や預貯金の払戻し、相続税の申告などに使えます。ただし、被相続人や相続人の中に日本国籍がなく戸除籍謄本を提出できない人がいる場合は利用できません。海外在住者の本人確認書類については申出先の登記所に事前に確認してください。
出典
- e-Gov法令検索 法の適用に関する通則法(第13条、第36条、第37条、第38条、第41条)
- e-Gov法令検索 遺言の方式の準拠法に関する法律(第2条〜第8条)
- e-Gov法令検索 民法(第968条、第969条、第970条、第974条、第975条、第984条、第1004条、第1022条、第1023条、第1028条、第1042条、第1046条、第1048条、第1049条)
- e-Gov法令検索 法務局における遺言書の保管等に関する法律(第4条、第6条、第9条)
- 法務省 自筆証書遺言書保管制度 02 遺言者の手続
- 法務省 自筆証書遺言書保管制度 07 管轄/遺言書保管所一覧
- 法務省 自筆証書遺言書保管制度 09 手数料
- 法務省 自筆証書遺言書保管制度 11 よくあるご質問(Q4 制度開始日、Q7 本人出頭、Q15 外国に住んでいる日本人の住所証明)
- 法務省 自筆証書遺言書保管制度 01 遺言書保管制度とは?
- 東京法務局 遺言書の保管申請の手続(海外在住の日本人は在留証明書と戸籍謄本)
- 日本公証人連合会 遺言(公正証書遺言のQ&A:証人、必要書類、手数料、電子化、遺言検索システム)
- 日本公証人連合会 Q3 公正証書遺言をするには、どのような資料を準備すればよいでしょうか
- 日本公証人連合会 Q2 公正証書遺言と自筆証書遺言には、どのような違いがありますか
- 日本公証人連合会 「2025年10月1日から公正証書の作成手続がデジタル化されます」(2025年8月8日版)
- 法務省民事局 公正証書に係る一連の手続のデジタル化について(令和7年12月)
- 法務省 相続に関するルールが大きく変わります(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行期日)
- 裁判所 遺言書の検認
- 法務局 法定相続情報証明制度について
- 法務局 法定相続情報証明制度の具体的な手続について
- 国税庁 タックスアンサー No.7456 国外財産調書の提出義務
本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、税務・法務の助言ではありません。個別の状況については税理士・税務署・年金事務所・市区町村などに確認してください。
週刊ダイジェスト(無料)
制度改正などの最新の動きを、毎週月曜にメールでまとめてお届けします。
ほかのガイド
- 海外移住の手続きチェックリスト:住民税・年金・健康保険・確定申告(2026年)
- 「183日ルール」の誤解と税務上の居住者判定:海外移住・ノマドが知るべき基本(2026年)
- 国外転出時課税(出国税)とは?対象者・計算・納税猶予をわかりやすく解説(2026年)
- 海外移住したら証券口座・NISA・iDeCo・銀行口座はどうなる?非居住者の手続き(2026年)
- 海外移住しても相続税・贈与税はかかる?「10年ルール」と納税義務者の区分(2026年)
- 海外移住後の日本の不動産:賃貸収入・売却にかかる税金と源泉徴収(2026年)
- 海外在住者の確定申告:申告が必要なケース・納税管理人・e-Taxでの提出方法(2026年)
- 海外移住と健康保険:国保の資格喪失・海外療養費・現地の医療保険(2026年)
- デジタルノマドの税金:居住地が決まらない人はどこで納税する?(2026年)
- 海外に住んで日本の年金を受け取るには:請求手続き・海外送金・現況届・税金(2026年)
- 海外移住後の日本の銀行口座と海外送金:残せる口座・非居住者の届出・税金と報告制度(2026年)
- 子連れの海外移住:子どもの国籍・出生届・就学と日本の手続き(2026年)
- EUの入国・滞在・税のルールまとめ:90日ルール・EES・ETIAS・EUブルーカード・DAC8(2026年)
- 本帰国の手続きと税金まとめ|転入届・マイナンバーカード・国保・年金・住民税・確定申告(2026年)
- 海外移住と住民税:1月1日ルール・出国年の住民税・納税管理人・退職時の一括徴収・ふるさと納税(2026年)
- 在留届・在外選挙・パスポート更新のやり方|海外在住者の手続きガイド(2026年)
- 海外で運転するには?国際運転免許証の取り方・海外在住中の免許更新・失効・外免切替(2026年)
- 海外移住と暗号資産(仮想通貨)の税金:出国前に売るべき?非居住者の課税・CARF・分離課税化(2026年)
- 海外赴任(駐在員)の税金と社会保険:非居住者の判定・出国時の年末調整・社会保障協定をわかりやすく解説(2026年)
- 海外移住で日本の生命保険・個人年金・火災保険はどうなる?継続手続き・非居住者の税金・海外保険会社の規制(2026年)
- 海外出産の手続きと給付金:出産育児一時金・出生届・国籍留保・児童手当・里帰り出産(2026年)
- 海外移住とiDeCo・企業型DC:任意加入で継続、運用指図者、自動移換、脱退一時金、受取時の税金(2026年)
- 海外移住・海外赴任と住宅ローン控除:単身赴任・家族帯同の扱いと帰国後の再適用、ローン契約の注意点(2026年)
- 海外移住・出国する年のふるさと納税はどうなる?住民税控除・寄附金控除・ワンストップ特例・返礼品の注意点(2026年)
- 海外から日本の親の介護・見守りをするには?要介護認定の代理申請・介護休業給付・成年後見・扶養控除を解説(2026年)
- 在留証明・署名証明(サイン証明)の取り方|海外から戸籍謄本・除票を取り寄せる方法とアポスティーユ(2026年)
- 海外移住で日本の携帯電話番号はどうする?SMS認証・本人確認・マイナンバーカード国外継続利用まとめ(2026年)
- 犬・猫と海外移住/日本に連れて帰る手続き:動物検疫所の輸出検査、米国・英国・EU・豪州の入国条件、帰国時の40日前届出と180日待機(2026年)
- 個人事業主・フリーランスの海外移住:廃業届は必要?インボイス登録・非居住者の源泉徴収20.42%・日本の取引先への対応(2026年)
- EUブルーカードの条件と2026年の給与基準:ドイツ・フランス・オランダなど国別比較、家族帯同、永住への道(2026年)
- 留学・ワーキングホリデーの手続きと税金:海外転出届は出す?国民年金・親の扶養・奨学金はどうなる?(2026年)
- 海外で子どもの日本語教育を続けるには:日本人学校・補習授業校・教科書の無償配付・帰国生入試(2026年)
- 海外から使える日本の行政オンライン手続きまとめ:マイナポータル・e-Tax・eLTAX・ねんきんネット・戸籍電子証明書(2026年)
関連: 国別比較 / 国別ビザ・税制サマリー