国を移動しながら働いていても、「どの国にも税金を払わなくてよい」状態が制度として用意されているわけではありません。まず日本の居住者かどうかを確かめ、居住者なら日本で全世界所得を申告し、非居住者なら滞在先の国の居住者判定と租税条約を確認する、という順番で考えるのが基本です。このガイドでは、居住地が定まりにくいノマドが押さえておきたい論点を、国税庁などの公的な情報をもとに整理します。
最初に確認すること:自分は日本の居住者か
日本の所得税法では、居住者とは国内に住所があるか、現在まで引き続き1年以上居所がある個人をいい、それ以外の個人が非居住者です。住所は「生活の本拠」を指し、住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍などの客観的事実によって判断されます(国税庁タックスアンサーNo.2012、No.2875)。
国の内外にわたって居住地が移る人の住所は、一般に職業などを基にした「住所の推定」で判定します(No.2012)。たとえば、事業を営むためや職業に従事するために国外に居住することになった人は、在留期間があらかじめ1年未満と明らかな場合を除き、国内に住所を有しない者と推定する方向で扱われます(所得税基本通達3-3、所得税法施行令15条)。一方で、国内に配偶者を残している、帰国後に住む家を持っているなど、国外に出た目的が明らかに一時的と認められる場合は、引き続き国内に居所があるものとして扱われます(所得税基本通達2-2)。
よく聞く「外国に183日以上いれば日本の非居住者」という説明は誤解です。国税庁は、居住者の判定は滞在日数のみによるものではなく、外国に1年の半分以上滞在していても日本の居住者となる場合があると明記しています(No.2012)。日数基準の詳しい誤解については、本サイトの「183日ルール」のガイドを参照してください。
日本の居住者のままなら、世界中で稼いだ所得が日本で課税される
国税庁は、1年の間に数か国を転々と移動するいわゆる「永遠の旅人(Perpetual Traveler)」であっても、生活の本拠が日本にあれば日本の居住者になると説明しています(No.2012)。日本国籍のノマドが日本の居住者と判定されれば、国内で得た所得だけでなく、国外の顧客からの報酬など国外で得た所得も含めて日本で課税され、確定申告が必要になります(No.2010)。
住民票を日本に残している、配偶者や子どもが日本の自宅で暮らしている、日本の住居を引き払っていない、主な資産や事業の拠点が日本にある、といった事情は、生活の本拠が日本にあると判断される方向の事実になり得ます。逆に、住民票を抜いただけで非居住者になるわけでもなく、最終的には事実関係の全体で判断されます。
日本の居住者として日本の取引先から原稿料やデザイン料などの報酬を受け取る場合、支払者は原則として支払金額の10.21%(1回の支払が100万円を超える部分は20.42%)を源泉徴収します(No.2795)。この源泉徴収税額は確定申告で精算します。
「どこの国の居住者でもない」は正式な立場ではない:外国の居住者判定と租税条約
日本の非居住者になったとしても、それで自動的に「どの国にも納税しなくてよい」ことにはなりません。外国の居住者になるかどうかはその国の法令で決まり(No.2012)、多くの国が滞在日数や住居の有無、生活や経済活動の中心がどこにあるかといった基準で居住者を判定しています。基準も日数の数え方も国ごとに違うため、本人が意識しないうちに滞在先の国の居住者とされていることもあり得ます。
一例として、エストニアの税務当局は、エストニアに居住地(恒常的または主として住んでいる場所)がある場合、または連続する12か月の間に183日以上滞在した場合に居住者になると説明しています。日数には入国日・出国日のように一部だけ滞在した日も含めて数えます。
反対に、どの国の基準にも当てはまらず、どこの国の居住者でもない状態になることも理屈の上ではあり得ます。ただし、その場合は租税条約の恩恵を受けにくくなる点に注意が必要です。租税条約は一般に一方または双方の締約国の居住者に適用されるもので、たとえば日米租税条約もその旨を定めています(1条1項)。日本で源泉徴収される所得について条約による軽減・免除を受けたいときや、外国の銀行や取引先から税務上の居住地を求められたときに、説明できる居住地がないと不利になることがあります。
逆に、日本の基準で日本の居住者、外国の基準でもその国の居住者となった人は「双方居住者」と呼ばれ、両国で課税される可能性があります。日本とその国の間に租税条約があれば、条約の規定に従ってどちらの国の居住者とするかを判定し、必要に応じて両国の当局が相互協議を行います(No.2012)。
日本の租税条約は、国際標準であるOECDモデル租税条約におおむね沿った規定を採用しています(財務省)。国税庁は、日本の租税条約の一例として、個人について次の順で判定する方法を挙げています(No.2875)。ただし、最初から両国当局の合意で決める方式の条約もあるため、関係する国との条約本文を財務省の「我が国の租税条約等の一覧」で確認してください。
短期間ずつ国を移動するノマドは、どの国にも恒久的住居がない、あるいは常用の住居が決まらないといった理由で、振り分けが簡単に決まらないことがあります。どの国と結び付きが強いのかを説明できるよう、住居の契約や仕事の拠点を整理しておくことが大切です。
- 1. 恒久的住居がある国
- 2. 両国に恒久的住居がある場合は、人的・経済的な関係がより密接な国(重要な利害関係の中心)
- 3. それでも決まらない場合や、どちらにも恒久的住居がない場合は、常用の住居がある国
- 4. 常用の住居でも決まらない場合は、国籍がある国
- 5. それでも決まらない場合は、両国の権限のある当局の合意
デジタルノマドビザを取れば税金はどうなるか
デジタルノマドビザは滞在や就労の許可であり、それだけで税務上の居住地が決まるわけではありません。ビザを持つ人をどう課税するかは国ごとに異なり、外国の雇用主のための仕事から得る収入を非課税とする国もあれば、通常の居住者判定をそのまま当てはめる国もあります。
日本の居住者のままであれば、滞在先の国で非課税になった収入も日本では全世界所得として課税対象です。滞在先で税金が課されていなければ、日本で差し引く外国税額もありません。ビザの名前だけで判断せず、滞在先の税務当局の情報と、日本での居住者判定の両方を確認してください。
- クロアチア:EU・EEA・スイス以外の国籍の人で、クロアチアに登録されていない会社(自分の会社を含む)のために通信技術を使って働く人が、デジタルノマドとして一時滞在の許可を受けられます(内務省、最長18か月)。所得税法の改正(2021年1月施行)により、デジタルノマドの資格に基づき、クロアチアに登録されていない雇用主のための勤務や活動から得る収入は所得税の対象外とされています。対象はこうした収入に限られます
- エストニア:デジタルノマドビザ(最長1年)の保有者でも、連続する12か月の期間に183日を超えて滞在すると税務上の居住者とみなされ、エストニアで申告・納税すべきだと政府のe-Residencyプログラムが説明しています
- 日本はクロアチア(2019年発効)、エストニア(2018年発効)のいずれとも租税条約を結んでいます(財務省)
日本の居住者が外国でも課税されたとき:外国税額控除
日本の居住者が外国の法令で所得税に相当する税(外国所得税)を納めた場合は、一定の控除限度額の範囲で、その外国所得税をその年の日本の所得税額から差し引くことができます(外国税額控除、国税庁タックスアンサーNo.1240)。控除限度額は、おおむね「その年分の所得税額×国外所得金額÷所得総額」で計算します。国外で行った役務の提供に係る対価などは国外源泉所得に当たります。
控除しきれない分は復興特別所得税からも差し引くことができ、控除限度額の余裕や超過額は一定の条件で3年間繰り越せます。一方、租税条約で減免されるべきなのに外国で多く納めた部分や、非居住者だった期間に生じた所得に課された外国税額などは、控除の対象になりません(No.1240)。
適用を受けるには、確定申告書等に「外国税額控除に関する明細書(居住者用)」や、外国所得税を課されたことを証する書類、外国の申告書の写しや納付を証する書類などを添付する必要があります(No.1240)。外国で税務申告をした場合は、申告書や納税証明、源泉徴収の明細などを必ず保管してください。
非居住者のフリーランスが日本の顧客から報酬を受けるとき
日本の非居住者には、日本国内で生じた「国内源泉所得」だけが課税されます(No.2878)。国内源泉所得に当たる人的役務の提供の対価や報酬は、「国内で行う」人的役務の提供に基づくものです。国税庁は、国外で行う人的役務の提供に係る対価や、国外で行う勤務などに基因する報酬を国外源泉所得として扱っています(No.1240)。このため、日本の非居住者が国外で行った業務の対価は、原則として日本の国内源泉所得には当たりません。
注意したいのは、一時帰国中や日本滞在中に行った業務の部分と、著作権などの対価です。国内で業務を行う者から受ける著作権の使用料やその譲渡の対価で国内業務に係るものは、国外で制作したものでも国内源泉所得に当たり得ます(No.2878)。非居住者に国内源泉所得を支払う人は、原則として支払の際に所得税等を源泉徴収します。税率は、人的役務の提供事業の対価、著作権等の使用料、人的役務の提供に対する報酬のいずれも20.42%です(No.2884)。所得の種類や恒久的施設の有無によって、源泉徴収だけで終わるか、日本で申告が必要かも変わります(No.2878)。
居住地国と日本の間に租税条約があれば、日本での源泉徴収が軽減・免除されることがあります。財務省は、OECDモデル租税条約の主な内容として、事業利得には源泉地国にある恒久的施設の活動により得た利得のみに課税すること、使用料などの投資所得には源泉地国での税率の上限(免税を含む)を設けることを挙げています。条約の適用を受けるには、原則として最初の支払日の前日までに「租税条約に関する届出書」を支払者経由で税務署長に提出します。提出が遅れると国内法の税率で源泉徴収され、後から還付請求をすることになります(No.2884、No.2888)。どこの国の居住者でもない場合は、こうした条約上の軽減を受けられません。
取引先から見ると、あなたが居住者か非居住者かで源泉徴収の方法が変わります。日本を出て非居住者になったことや、業務を行う場所、成果物の権利の扱いを、契約書や請求書で明確にしておくとトラブルを防げます。
消費税・インボイス、国民年金、住民税との関係
消費税は、所得税の居住者・非居住者の区分とは別に、取引ごとに国内取引かどうかを判定します。役務の提供は原則としてその役務の提供が行われた場所で判定し、国外取引には消費税は課税されません(国税庁タックスアンサーNo.6210)。ただし、電子書籍・音楽・広告の配信などインターネット等を介して行う「電気通信利用役務の提供」は、提供を受ける人の住所等で判定します(No.6118)。国税庁のQ&Aでは、制作物の受け渡しや制作過程の指示をインターネット経由で行うだけの著作物の制作は、電気通信利用役務の提供に当たらないとしています。
インボイス(適格請求書発行事業者)の登録は国外事業者も受けられますが、国内に事務所等を持たない特定国外事業者の場合は、消費税の税務代理人(税理士など)がいないことや、必要な納税管理人の届出をしていないことが、登録の拒否や取消しの事由とされています(国税庁 D1-65)。日本でインボイス登録をしたまま出国する人は、登録や申告をどうするかを税務署や税理士に確認してください。
国民年金の第1号被保険者は日本国内に住所がある20歳以上60歳未満の人です。海外に住むと強制加入ではなくなりますが、日本国籍があれば20歳以上65歳未満の間は任意加入できます(日本年金機構)。個人住民税は、その年の1月1日時点で住所がある市町村が前年の所得に対して課税し(総務省)、住民基本台帳法の適用を受ける人の住所は原則として住民基本台帳に記録されている市町村とされます(地方税法294条)。住民票を日本に残したまま移動を続けると、住民税や国民年金・国民健康保険の扱いも日本に住んでいる人と同じになりやすい点に注意してください。また、住所がなくても市町村内に事務所や家屋敷を持つ個人には、住民税の均等割が課されることがあります(同条)。
記録の残し方と最終チェックリスト
居住地の判定は、後から税務当局に事実で説明できるかどうかが重要です。日本でも外国でも、滞在日数、住居、仕事の拠点、家族や資産の所在といった事実が判断材料になります。年ごとに国別の滞在日数を集計し、裏付けとなる記録を数年分保管しておきましょう。
次のチェックリストで、自分の状況を確認してください。
このガイドは一般的な制度の説明であり、個別の税務アドバイスではありません。居住者の判定や租税条約の適用は個々の事実関係で結論が変わり、各国の制度も改正されます。具体的な判断は、税理士または所轄の税務署、滞在先の国の税務当局や専門家に相談してください。
- 日本に住民票、住居、家族、主な資産や事業の拠点が残っていないか(残っていれば日本の居住者と判断される可能性が高い)
- 日本の居住者なら、国外の顧客からの報酬も含めて日本で確定申告しているか
- 国別・年別の滞在日数を、入出国日(パスポートのスタンプや出入国記録、航空券)で説明できるか
- 各滞在国の居住者判定の基準(日数の数え方、住居、生活の中心)を確認したか
- どこかの国の居住者として説明できる状態か。双方居住者になる場合は租税条約の振り分け規定を確認したか
- ノマドビザの税務上の扱いを、ビザの案内ではなく滞在先の税務当局の情報で確認したか
- 外国で納めた税金について、申告書の写しや納付の証明を保管しているか(外国税額控除に必要)
- 日本の取引先に居住者・非居住者の別を伝え、業務を行う場所や著作権の扱いを契約書で明確にしているか
- 租税条約の適用を受ける場合、最初の支払日の前日までに「租税条約に関する届出書」を提出したか
- インボイス登録、国民年金の任意加入、住民税の扱いを、出国前に確認したか
- 住居の賃貸契約、コワーキングスペースの契約、請求書、銀行の入出金記録を保管しているか
よくある質問
Q. 1年中いろいろな国を移動していて、どの国にも183日いません。税金はどこにも払わなくてよいですか?
A. そうとは限りません。国税庁は、数か国を転々と移動する人でも生活の本拠が日本にあれば日本の居住者になると説明しており、その場合は全世界所得が日本で課税されます。日本の非居住者であっても、外国の居住者になるかどうかはその国の法令で決まり、183日以外の基準で居住者とされることもあります。
Q. 住民票を抜いて出国すれば、日本で税金を払わなくてよくなりますか?
A. 住民票の有無だけでは決まりません。所得税の住所は住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍などの客観的事実で判断されます。また非居住者になっても、日本国内で行った業務の報酬や、日本の取引先から受ける著作権の使用料などの国内源泉所得には日本で課税されます。
Q. 日本の非居住者として海外で仕事をし、日本の会社から報酬を受け取ります。源泉徴収されますか?
A. 国外で行った業務の対価は原則として日本の国内源泉所得に当たらないため、その部分は源泉徴収の対象外です。一方、日本滞在中に行った業務の対価や、国内業務に係る著作権の使用料・譲渡対価は国内源泉所得となり得て、原則20.42%で源泉徴収されます。租税条約で軽減・免除を受けるには、事前に租税条約に関する届出書の提出が必要です。
Q. デジタルノマドビザを取った国で非課税になれば、日本でも税金はかかりませんか?
A. 日本の居住者であれば、滞在先で非課税の収入も日本では課税対象です。滞在先で税金を納めていなければ、外国税額控除で差し引く税額もありません。ノマドビザの税務上の扱いは国によって異なるため、滞在先の税務当局の情報と日本での居住者判定の両方を確認してください。
Q. 日本と外国の両方で税金を課されてしまった場合はどうすればよいですか?
A. 日本の居住者であれば、外国で納めた所得税相当の税額を、控除限度額の範囲で日本の所得税から差し引く外国税額控除を検討します。双方居住者になっている場合は、租税条約の振り分け規定でどちらの国の居住者かを判定し、必要に応じて両国当局の相互協議を申し立てる方法もあります。
出典
本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、税務・法務の助言ではありません。個別の状況については税理士・税務署・年金事務所・市区町村などに確認してください。