海外で出産しても、出産の時点で日本の健康保険や国民健康保険に加入していれば、出産育児一時金(原則50万円、海外出産では48.8万円として案内する保険者もあります)を出産日の翌日から2年以内に申請できます。一方、海外転出届を出して日本の公的医療保険に加入していない人や、子どもが日本に住んでいない世帯は、一時金や児童手当の対象外です。子どもが外国籍も取得する場合は、出生から3か月以内に出生届とともに国籍留保の届出をしないと日本国籍を失うため、期限管理が最も重要です。
出産育児一時金:海外出産でも支給される人・されない人
出産育児一時金は、公的医療保険の加入者が出産したときに、子ども1人につき原則50万円が加入先の保険者から支給される制度です。厚生労働省は支給要件を「出産した時点で日本の公的医療保険に加入していること」「妊娠4か月(85日)以上での出産であること」の2つとし、これを満たせば出産方法・出産場所を問わず支給対象になるとしています。海外で出産した場合も、出産時点で有効な加入資格があれば加入先に申請できます。
金額は出産した施設によって異なります。協会けんぽでは、産科医療補償制度に加入する機関で在胎週数22週以降に出産した場合は1児につき50万円、産科医療補償制度に未加入の機関での出産や22週未満の出産は1児につき48.8万円です。産科医療補償制度は日本国内の分娩機関が加入する制度で、海外出産について郡山市の国民健康保険は支給額を48万8,000円と案内しています。正確な金額は加入先に確認してください。
なお、2026年5月29日に成立した健康保険法等の改正法では、出産の標準的な費用に自己負担がかからないよう、出産育児一時金に代わる給付方式(分娩1件当たりの基本単価を国が設定して保険者から施設に直接支払う方式と、全ての妊婦への定額の現金給付)を導入することになりました。施行は公布後2年以内に政令で定める日とされ、当分の間は施設単位で現行の出産育児一時金を選ぶこともできます。新制度で海外出産がどう扱われるかは、本ページ作成時点で確認できた資料には示されていません。
海外出産で一時金を受けられるかどうかは、出産時にどの制度に加入しているかで決まります。
- 日本の会社に雇用されたまま海外に赴任している会社員で、日本の健康保険の被保険者である人:被保険者として申請できます
- 日本の健康保険の被扶養者である家族(駐在員の配偶者など):家族出産育児一時金の対象です。厚生労働省の通知では、日本に生活拠点がない被扶養者からの申請は、扶養の事実を確認したうえで支給の可否を判断するとされています
- 国民健康保険の加入者:国民健康保険は都道府県の区域内に住所を有する人が加入する制度です(国民健康保険法第5条)。郡山市は「一時的な渡航中の出産」を対象とし、船橋市は1年以上の長期滞在で生活の本拠が日本にないと判断され転出手続きが必要な場合は支給対象にならないとしています
- 退職後に海外へ移った人:退職日までに継続して1年以上被保険者期間があり、退職後6か月以内に出産した場合は、以前加入していた健康保険から被保険者本人として支給を受けられます(被扶養者だった家族の出産は対象外)。複数の保険者から重複しては受け取れません
- 海外転出届を出して日本の公的医療保険に加入していない人や、現地の会社に現地採用されて日本の健康保険に入っていない人:出産時点で日本の公的医療保険に加入していないため対象外です
海外出産の一時金の申請方法:必要書類・翻訳・申請期限2年
日本の病院で使える直接支払制度や受取代理制度は、海外出産では使えません(港区は受取代理制度について「海外での出産は申し込みできません」と案内しています)。現地で出産費用をいったん全額支払い、後から加入先に一時金を請求する流れになります。申請期限は出産日の翌日から2年以内で、これを過ぎると時効で請求できなくなります。
海外出産を装った不正請求を防ぐため、厚生労働省の通知(令和5年5月24日一部改正)により審査が強化されています。保険者が海外の医療機関に照会したり、添付の翻訳文とは別に翻訳し直したりすることがあり、国内出産より支給決定に時間がかかります。協会けんぽでは、海外出産の場合に次の書類を求めています。
- 健康保険出産育児一時金支給申請書
- 出産を担当した海外の医療機関等の医師・助産師の証明書
- 出産した日(期間)に実際に海外に渡航していたことが確認できる書類(パスポート、査証(ビザ)、航空チケット等のコピー)
- 協会けんぽが海外の医療機関に出産の事実を照会することへの同意書(英語・中国語・韓国語・ベトナム語・インドネシア語の様式があります)
- 医師・助産師の証明書が用意できない場合:出産を確認できる書類(戸籍謄本・抄本、戸籍記載事項証明書、出生届受理証明書等)に加え、海外の公的機関が発行する戸籍や住民登録に関する書類と、証明書の添付が困難な理由・出産した医療機関名・担当医等を記載した書面
- 証明書等が外国語の場合は翻訳文が必要で、翻訳者が署名し、住所と電話番号を明記します
- 国民健康保険の場合は市区町村ごとに書類が異なります。例えば船橋市は出生証明書の原本と日本語訳(翻訳者は誰でも可)、出産した人のパスポート原本、母子健康手帳、同意書などを求め、出産した人が日本へ帰国していないと申請できないとしています。港区も再入国後の申請とし、自動化ゲートの利用でパスポートに出入国スタンプがない場合は、搭乗券の半券、搭乗証明書、法務省の出入国記録などの追加提出を求めています
- 郡山市は、出生証明書は出生届に添付すると返却されないため、出生届を出す前に出生証明書と日本語訳のコピーを取っておくよう案内しています。現地医療機関の領収書と日本語訳も必要です
出産手当金と育児休業給付金(会社員・駐在員の場合)
会社員が受けられる給付には、健康保険の出産手当金と、雇用保険の育児休業給付金があります。どちらも日本の制度に加入していることが前提で、各制度の案内に出産場所が国内か海外かによる区別は示されていません。
出産手当金は、健康保険の被保険者本人が出産のために会社を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合の給付で、被扶養者は対象外です。国民健康保険法で市町村が必ず行う出産関係の給付は出産育児一時金で(第58条)、出産手当金は会社員等が加入する健康保険の給付と考えてください。
- 出産手当金の支給期間:出産の日(予定日より遅れた場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠は98日)から、出産の翌日以後56日目までの範囲で、会社を休んだ期間
- 出産手当金の1日あたりの金額:支給開始日以前12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30日×3分の2。加入期間が12か月未満の場合は、直近の継続した各月の平均と32万円(支給開始日が令和7年4月1日以降の場合)のいずれか低い額で計算します
- 休んだ期間に出産手当金より少ない給与が支払われた場合は差額が支給されます
- 出産手当金の申請期限:会社を休んだ日ごとに、その翌日から2年で時効になります
- 出産手当金は退職後も受けられる場合があります:退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があり、退職時に出産手当金を受けているか受ける条件を満たしていれば、退職後も継続して受けられます。退職日に出勤すると継続給付は受けられません
- 育児休業給付金は雇用保険の被保険者が対象です。厚生労働省の雇用保険の手引きでは、出張や海外支店等への転勤で国外で働く場合や、海外の現地法人等へ出向する場合は、国内の出向元との雇用関係が続いている限り被保険者となり、海外で現地採用される人は被保険者にならないとされています。海外赴任中の会社員は対象になり得ますが、現地採用で働く人は日本の育児休業給付の対象外です
- 育児休業給付金の主な要件:原則1歳未満の子を養育するために育児休業を取得すること、休業開始日前2年間に賃金支払基礎日数11日以上(または就業時間80時間以上)の月が12か月以上あること
- 育児休業給付金の受給要件の緩和:事業主の命による外国勤務や、配偶者の海外勤務に同行するための休職などで引き続き30日以上賃金を受けられなかった期間は、上記の2年間に加算でき、最長4年間まで遡って判定できます
- 育児休業給付金の支給額:休業開始時賃金日額×支給日数×67%(育児休業開始から181日目以降は50%)
- 上限額(令和9年7月31日までの額):休業開始時賃金日額の上限は16,540円で、支給日数30日の場合の上限は67%で332,454円、50%で248,100円
- 出生後休業支援給付金:子の出生直後の一定期間に本人が通算14日以上の育児休業を取得し、配偶者も14日以上の育児休業を取得する(配偶者が育児休業を取れない一定の場合は配偶者の要件なし)と、最大28日分について13%が上乗せされ、67%と合わせて80%(手取りで10割相当)になります。28日分の上限は60,205円です
- 申請は事業主を通じて、事業所の所在地を管轄するハローワークに行います
児童手当・妊婦のための支援給付は日本に住所がないと対象外
こども家庭庁によると、児童手当は原則として児童が日本国内に住んでいる場合に支給されます(留学のために海外に住んでいて一定の要件を満たす場合を除く)。海外で生まれて海外で暮らす子どもは対象外です。父母が海外に住み、子どもを日本国内の祖父母などが育てている場合は、父母が「父母指定者」を指定すれば、その人に支給されます。
支給額は、3歳未満が月額15,000円、3歳以上高校生年代までが月額10,000円で、第3子以降は年齢にかかわらず月額30,000円です。毎年2月・4月・6月・8月・10月・12月に、前月分までの2か月分が支給されます。
- 子どもと一緒に日本へ帰国して転入したら、転入した日の翌日から15日以内に転入先の市区町村へ認定請求をします
- 原則として申請した月の翌月分からの支給で、申請が遅れると遅れた月分は受けられません(出生日や転入日が月末に近い場合は、異動日の翌日から15日以内なら申請月分から支給)
- 受給中に受給者や児童が海外へ転出する場合は、市区町村への届出が必要です
- 妊婦のための支援給付(妊婦給付認定後に5万円、妊娠しているこどもの人数の届出後に人数×5万円)も、申請先は住民票のある市区町村です。住民票を日本に置いていない海外在住の妊婦は、申請先となる市区町村がありません
出生届・国籍留保・子どものパスポート・在留届
海外で生まれた子の出生届は、出生の日から3か月以内に提出します(戸籍法第49条)。外国にいる日本人は、その国に駐在する日本の大使館・総領事館に届け出ることができ(同法第40条)、本籍地の市区町村に届け出ることもできます。届出人は原則として父または母で、医師等が作成した出生証明書を添付します。外国語の書類には翻訳者を明らかにした訳文が必要です(戸籍法施行規則第63条)。手数料はかかりません。出生届の基本は「子連れの海外移住」のガイドでも扱っています。
子どもが出生によって外国の国籍も取得した場合(出生地主義の国で生まれた、親の一方が外国籍など)は、3か月以内に出生届とともに「日本国籍を留保する」旨を届け出なければ、出生の時にさかのぼって日本国籍を失います(国籍法第12条、戸籍法第104条)。出生届の用紙にある国籍留保の欄に記入する方法で行います。天災など届出人の責めに帰さない事由で期間内に届け出られなかった場合は、届出ができるようになった時から14日以内です。
- 国籍留保をしなかったために日本国籍を失った子は、18歳未満で日本に住所があれば、法務大臣への届出で日本国籍を再取得できます。観光や親族訪問などの一時滞在では日本に住所があるとは認められず、届出先は法務局・地方法務局です
- 国籍留保が関係しない場合でも、正当な理由なく期間内に出生届をしないと5万円以下の過料の対象になります(戸籍法第137条)。期間経過後の届出も受理はされます(同法第46条)
- パスポート:国外では領事官(大使館・総領事館)に申請でき、申請には戸籍謄本が必要です(旅券法第3条)。出生届が受理され戸籍に記載されてから申請することになります。18歳未満の旅券は有効期間5年です(旅券法第5条)
- 日本国内で申請する場合の5年旅券の手数料は、2026年7月1日申請分から窓口4,800円(東京都の場合、オンライン申請は400円安い)に引き下げられました。乳幼児でも受け取りは本人の来所が必要です
- 在留届:外務省は、子どもが生まれたら親の在留届に同居家族として追加し、パスポートを取得したらその番号も登録するよう案内しています。オンライン在留届(ORRネット)では「変更届」から、書面の場合は出生届を出す際に窓口で変更届を提出します
出生地主義の国で生まれた子の二重国籍と国籍選択(20歳まで)
法務省は、日本国民の父母の子としてアメリカ、カナダ、ブラジル、ペルーなど生地主義をとる国で生まれた子や、日本国民と父母両系血統主義の国の国籍を持つ親との間に生まれた子などを、重国籍になる典型例として挙げています。外国籍を持つかどうかはその国の法律で決まるため、その国の機関に確認する必要があります。
重国籍者は、期限までにいずれかの国籍を選択しなければなりません(国籍法第14条)。令和4年4月1日の改正で期限が変わり、18歳に達する前に重国籍となった場合は20歳に達するまで、18歳に達した後に重国籍となった場合は重国籍となった時から2年以内です。改正前は「22歳まで」でしたが、今生まれる子どもは20歳が期限です。
- 日本国籍を選ぶ方法:外国の国籍を離脱して「外国国籍喪失届」を出すか、市区町村役場または在外公館に「国籍選択届」(日本国籍の選択宣言)を出します。選択宣言で外国籍を当然に失うかはその国の制度次第で、失わない場合は外国籍の離脱に努めなければなりません(国籍法第16条第1項)
- 外国の国籍を選ぶ方法:法務局・地方法務局または在外公館に「国籍離脱届」を出すか、外国の法令で外国籍を選択したうえで「国籍喪失届」を出します
- 本人が15歳未満のときは、法定代理人(通常は親)が代わって手続をします
- 期限を過ぎても選択の義務は残ります。期限内に日本国籍を選択しないと法務大臣が催告でき、催告を受けた日から1か月以内に日本国籍を選択しなければ、原則としてその期間が経過した時に日本国籍を失います
日本に一時帰国して出産する場合(住民票がない里帰り出産)
海外に生活の本拠を置いたまま出産のために一時帰国する場合、海外転出届で住民票を抜いていると、国民健康保険には原則として加入できません(国民健康保険法第5条は「住所を有する者」が対象)。日本の健康保険の被保険者・被扶養者でなければ、出産費用は全額自己負担になり、出産育児一時金も受けられません。日本に戻って生活する(本帰国する)場合は、転入届を出して国民健康保険などに加入してから出産することになります。本帰国の手続は「本帰国の手続き」のガイドを参照してください。
- 妊婦健診の公費助成(受診票)は住民登録のある市区町村の制度です。例えば杉並区は、都外で受診した場合の費用助成について「受診日に杉並区に住民登録がある」ことを条件とし、出産後1年以内の申請を求めています。住民票がない一時帰国中の健診は、原則として自費になると考えてください
- 日本国内で生まれた場合の出生届は、出生の日から14日以内に、出生地・本籍地・届出人の所在地のいずれかの市区町村に提出します。法務省の案内では、国籍留保が必要になるのは外国で生まれて外国籍も取得した子で、日本で生まれた子には国籍留保の届出は求められていません
- 帰国中に子どものパスポートを申請する場合、東京都では海外からの一時帰国者は住民登録がなくても居所申請ができます(本人が窓口に来所、オンライン申請不可)
- 健康保険の被保険者・被扶養者として日本の病院で出産する場合は、直接支払制度を使えるかを出産施設に確認しておくと、窓口での立て替えを減らせます
よくある質問
Q. 海外に住んでいて住民票を抜いています。日本の出産育児一時金はもらえますか?
A. 出産育児一時金は、出産した時点で日本の公的医療保険に加入していることが要件です。日本の会社に在籍したまま赴任していて日本の健康保険の被保険者・被扶養者であれば対象ですが、住民票を抜いて国民健康保険に加入していない人や、現地採用で日本の健康保険に入っていない人は対象外です。ただし、退職前に継続して1年以上健康保険の被保険者で、退職後6か月以内に出産した本人は、以前の健康保険から受けられます。
Q. 海外出産の出産育児一時金はいくらですか?
A. 原則は1児につき50万円ですが、これは産科医療補償制度に加入する機関で22週以降に出産した場合の額です。未加入の機関での出産は48.8万円で、海外出産について郡山市の国民健康保険は48万8,000円と案内しています。双子なら人数分が支給されます。申請期限は出産日の翌日から2年以内です。
Q. 海外で出産した子の出生届を3か月以内に出せないとどうなりますか?
A. 子どもが外国籍も取得している場合、3か月以内に出生届とともに国籍留保の届出をしないと、出生の時にさかのぼって日本国籍を失います。18歳未満で日本に住所があれば法務大臣への届出で再取得できますが、海外に住んだままでは再取得の届出ができません。外国籍を持たない子でも、正当な理由のない届出遅れは5万円以下の過料の対象です。
Q. 二重国籍の子どもは22歳までに国籍を選べばよいのですか?
A. 令和4年4月1日の国籍法改正で期限が変わりました。18歳に達する前に重国籍となった場合は20歳に達するまで、18歳以後に重国籍となった場合は重国籍となった時から2年以内です。15歳未満のときは親などの法定代理人が手続します。
Q. 海外で子育てしている間も児童手当は受け取れますか?
A. 児童手当は原則として児童が日本国内に住んでいる場合に支給されるため、海外で暮らす子どもは対象外です(留学で一定の要件を満たす場合を除く)。子どもと一緒に帰国して転入したら、転入した日の翌日から15日以内に市区町村へ申請してください。
Q. 住民票がないまま一時帰国して日本で出産できますか?
A. 出産自体はできますが、国民健康保険には住所がないと加入できないため、日本の健康保険の被保険者・被扶養者でなければ出産費用は全額自己負担で、出産育児一時金も出ません。妊婦健診の公費助成も住民登録が条件のため、原則として自費になります。日本に戻って暮らす予定なら、転入届を出してから出産する方法を検討してください。
出典
本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、税務・法務の助言ではありません。個別の状況については税理士・税務署・年金事務所・市区町村などに確認してください。