日本の年金は、海外に住んでいても受け取ることができます。ただし、海外に住む人には年金請求書が自動では届かず、受取口座の届出や毎年の現況届など、国内に住む人とは違う手続きが必要です。このガイドでは、受給開始の請求から受け取り後の届出、税金、受給前にできる備えまでを、日本年金機構などの案内に沿って整理します。
受給開始の請求:海外から年金請求書を出す方法
老齢年金を受け取る権利は受給開始年齢に達すると発生しますが、自動的に支払いが始まるわけではなく、本人が年金請求書を提出する必要があります。国内に住む人には、受給開始年齢の3か月前から「年金請求書(事前送付用)」が送られますが、日本年金機構は、日本国外に住む人にはこの事前送付用の請求書を送っていないと案内しています。海外に住む人は、日本年金機構のウェブサイトから「年金請求書(国民年金・厚生年金保険 老齢給付)」をダウンロードして手続きします。
請求書は、受給開始年齢に達した日(誕生日の前日)以降に提出します。それより前に出すと受け付けられません。海外に住む人の提出先は、日本での最終住所地を管轄する年金事務所または街角の年金相談センターです。日本年金機構は、窓口での相談が必要なければ請求書を郵送で提出できると案内しており、郵送する場合は年金事務所あてに送ります。
海外に住む人は、請求書に「外国居住年金受給権者 住所・受取金融機関 登録(変更)届」を必ず添付します。国内に住む人が添付する世帯全員の住民票の写しに代えて、在留国の日本大使館・総領事館が発行する在留証明(本人と配偶者等のもの)が必要です。所得証明書が必要な場合は、滞在国で税の申告をしている人はその申告書の写しを、申告していない人は所得に関する申立書を添付します。戸籍などの書類は、受給権が発生した日以降に交付され、かつ請求書の提出日から6か月以内のものを用意します。
社会保障協定を結んでいる国に住んでいる場合は、その国の年金実施機関に日本の年金の申請書(国民年金・厚生年金保険決定請求書)を提出することもできます。申請書は相手国の実施機関から日本年金機構に送られ、日本年金機構が決定と支払いを行います。ただし、英国・韓国・中国との協定ではこの取り扱いはありません。
年金を受ける権利は、権利が発生してから5年を経過すると時効によって消滅するのが原則です(やむを得ない事情がある場合の申立てなどの例外があります)。海外にいると請求書が届かないため、受給開始年齢が近づいたら自分で手続きの時期を確認してください。
相談は、ねんきんダイヤルで受け付けています。ナビダイヤル(0570-05-1165)が使えない電話からは一般電話の番号(03-6700-1165、海外からは国番号81を付けてかけます)を使います。受付は日本時間の平日などに限られます。また、マイナンバーカードを持つ海外在住者は、ねんきんネット上で相談内容を登録し後日回答を受け取る「オンライン文書相談」(試行実施中)も利用できます。一時帰国中であれば、年金事務所や街角の年金相談センターで予約して相談できます。
受取口座:日本の口座か海外の口座か
海外に住んでいても、日本国内の金融機関の口座を年金の受取先に指定できます。ただし、ゆうちょ銀行は指定できません。海外の金融機関の口座で受け取ることもでき、その場合は「外国居住年金受給権者 住所・受取金融機関 登録(変更)届」に金融機関名や口座番号を記入し、口座証明、小切手帳の写し、通帳の写しなどを添付します。
海外の口座へ送金するには、金融機関を特定するSWIFT(BIC)コードが必須です。国によっては追加の情報も必要で、ヨーロッパなどIBAN採用国ではIBANとBIC、アメリカではABA(ROUTING)番号(9桁)、ブラジルではAGENCIA番号、オーストラリアではBSB番号(6桁)を届け出ます。そのほかの国は、必要な情報を受取先の金融機関に確認してください。
海外の口座への送金通貨は国ごとに決められており、個人が希望する通貨を選ぶことはできません。日本年金機構の「国別送金通貨一覧」では、たとえばオーストラリアはオーストラリア・ドル、カナダはカナダ・ドル、ユーロ圏の国はユーロ、イギリスはポンド、シンガポールはシンガポール・ドルで、一覧にない国はアメリカ・ドルで送金されます。クロアチアとブルガリア向けは、2026年10月以降、アメリカ・ドルからユーロに変更されると案内されています。
円から送金通貨への換算や、受取側の銀行でかかる手数料については、日本年金機構のページに具体的な説明はありません。年金額は円で決まっているため、受け取る外貨の額は為替の動きによって変わります。外貨建ての海外送金を受け取れるか、受取手数料がかかるかは、受取口座の銀行に事前に確認してください。
年金を受けている人が海外に住むときの届出の提出期限は、年金支払日の前々月末日です。受取先を変更した後の初回の振込には3〜4週間かかる場合があります。海外で引っ越したときや口座を変えたときも同じ届書を提出し、提出先は日本での最終住所地を管轄する年金事務所、または日本年金機構(〒168-8505 東京都杉並区高井戸西3-5-24)への郵送です。日本に戻って国内に住む場合、年金の振込先は国内の金融機関になります。
毎年の現況届と在留証明
国内に住む受給者は、日本年金機構が住民基本台帳ネットワークの情報で生存を確認しているため、多くの人は現況届を出す必要がありません。一方、海外に住んで年金を受け取る人は、年1回「現況届」を提出する必要があります。
提出期限は誕生月の末日です。現況届は誕生月の3か月前に送付されます。誕生月の中旬までに届かない場合は、到着を待たずに、ウェブサイトから印刷した現況届(印刷できない場合は基礎年金番号・氏名・生年月日・住所・理由を書いた任意の用紙)に在留証明等を添えて提出します。国内向けの案内では、現況届を期限までに出さないと、提出されるまで年金の支払いが一時止まるとされています。
日本国籍の人は、住んでいる国の日本大使館・総領事館が発行する在留証明を添付します。有効なのは、誕生月を含めて過去6か月以内に証明を受けたものです(8月生まれなら3月〜8月)。在留証明の申請には、日本年金機構から届いた現況届、年金証書などの通知書の提示が必要です。2025年5月27日からは、ロシアとイランにある在外公館を除くすべての在外公館で、電子的に作成した在留証明(e-証明書)も取得できます。外国籍の人は、在留証明に代えて、自国の戸籍や住民票に相当するもの、または公的機関・公証人などの第三者の証明を添付します。
マイナンバーカードを持っている人は、e-Govの電子申請で現況届を提出することもできます。マイナンバーカードを国外で使い続けるための手続きは、「海外移住の手続きチェックリスト」のガイドを参照してください。加給年金額の対象となる配偶者などがいる人は、その人の証明も必要です。一時帰国中で在留証明を添付できない場合は、パスポートなど本人確認や健在確認ができる書類を持って年金事務所に相談します。
税金と天引き:源泉徴収・租税条約・介護保険料
非居住者が受け取る日本の公的年金には、所得税の源泉徴収が行われます。国税庁によると、税率は20.42%で、年金額から5万円(65歳以上は9万5千円)に年金の月数を掛けた額を差し引いた残りに課税されます。公的年金だけを受け取っている人は、原則として日本での確定申告は不要です。詳しい仕組みは「海外在住者の確定申告」のガイドで説明しています。
受け取っているのが老齢年金で、住んでいる国と日本の租税条約に年金に関する定めがある場合は、「租税条約に関する届出書(様式9)」を2部、日本年金機構に提出すると、日本の所得税の免除を受けられます(アメリカに住む人は特典条項に関する付表(様式17-米)と、米国歳入庁が発行する居住者証明書Form 6166も必要です)。日本年金機構は、年金条項のある租税条約を結んでいる国に住む場合、年金は居住国で課税の対象となり日本では非課税になると説明しています。カナダ、タイ、スウェーデン、中国のマカオ、アメリカのプエルトリコ・グアムなど、条約が年金に適用されない国・地域もあります。
海外に住んで老齢年金を受けている人には、毎年1月に、前年に支払われた年金額や源泉徴収税額を記載した支払調書が送られます。居住国で税の申告をするときの資料として保管してください。
年金生活者支援給付金を受けている人は、海外に転出すると支給されなくなるため、「年金生活者支援給付金 不支給事由該当届」を提出します。また、介護保険法では、65歳以上の人は市町村の区域内に住所を有することで介護保険の第1号被保険者となり、住所を有しなくなった日の翌日に資格を失うと定めています。海外転出によって資格を失えば、その後の期間の介護保険料はかかりません。年金から天引きされていた保険料の精算などは、転出前に住んでいた市区町村に確認してください。国民健康保険(75歳以上は後期高齢者医療制度)も住所を基準とする制度で、海外転出により資格を失います。詳しくは「海外移住と健康保険」のガイドを参照してください。
受給前の人:国民年金の任意加入とカラ期間
海外に住むと国民年金の強制加入の対象ではなくなりますが、日本国籍の人は20歳以上65歳未満の間、国民年金に任意加入できます。保険料を納めた期間は老齢基礎年金の額に反映され、海外在住中の死亡や障害についても遺族基礎年金・障害基礎年金の対象になります。任意加入しても保険料を納めなければ年金額には反映されません。任意加入中は付加保険料も納められますが、保険料の免除・納付猶予は申請できません。
さらに、老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていない人のうち、昭和50年(1975年)4月1日以前に生まれた人は、65歳以上70歳未満の間も、受給資格期間を満たすまで特例的に任意加入できると日本年金機構は案内しています。なお、保険料の納付月数が480月(40年)に達すると、任意加入被保険者の資格は失われます。
すでに海外に住んでいる人の任意加入の窓口は、国内に手続きや保険料の納付を代わりに行う親族(国内協力者)がいれば日本での最後の住所地の市区町村、いなければ最後の住所地を管轄する年金事務所(日本に住んだことがない人は千代田年金事務所)です。保険料は、国内協力者が代わりに納めるか、日本国内の預貯金口座から引き落とします。
任意加入しなかった場合でも、日本人が海外に住んでいた期間のうち任意加入しなかった期間(20歳以上60歳未満に限る)は「合算対象期間(いわゆるカラ期間)」になります。合算対象期間は、老齢基礎年金に必要な10年の受給資格期間には数えられますが、年金額には反映されません。保険料納付済期間と免除期間を合わせて25年未満の人は、請求の際に合算対象期間を確認するため、戸籍の附票の写しなどの添付を求められる場合があります。
社会保障協定と年金加入期間の通算
日本は、保険料の二重負担を防ぎ、年金の加入期間を通算するための社会保障協定を各国と結んでいます。厚生労働省の資料では、2026年6月2日時点で24か国との協定が発効しています(ドイツ、英国、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア、オーストリア)。ポーランドとは2026年4月に署名済みで、タイとは予備協議などの段階です。
加入期間の通算とは、日本の加入期間だけでは受給資格(老齢年金は10年)を満たせない場合に、協定相手国の加入期間を日本の加入期間に算入して資格を判断する仕組みです。日本年金機構の説明では、たとえば日本の期間が足りなくても、相手国の期間を合わせて10年以上になれば日本の老齢年金が支給されます。両国に同時に加入していた期間は二重には数えません。
通算しても、年金が一方の国からまとめて支払われるわけではありません。年金額はそれぞれの国のルールで計算され、両国の制度に加入した期間に応じた年金を、それぞれの国から受け取ります。なお、英国・韓国・中国・イタリアとの協定は保険料の二重負担の防止のみを定めており、加入期間の通算はできません。
協定の対象となる制度や手続きは国ごとに異なります。日本年金機構の「社会保障協定」のページに国別の案内と各国実施機関へのリンクがあるので、移住先や過去に働いた国が対象かを確認してください。
繰下げ受給は海外からでも選べるか
老齢基礎年金と老齢厚生年金は、65歳で受け取らずに66歳以後75歳までの間に繰り下げて、増額された年金を受け取ることができます。増額率は65歳に達した月から繰下げを申し出た月の前月までの月数に0.7%を掛けたもので、最大84%です(昭和27年4月1日以前生まれの人などは上限70歳・最大42%)。老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げることもできます。
日本年金機構の繰下げ制度の案内には、海外に住んでいることを理由に繰下げができないとする記載はありません。繰下げを希望する場合は、66歳以後の受け取りを始めたい時期に請求書を提出し、その時点で増額率が決まります。請求書の様式は年金の受給状況によって異なるため、海外から手続きする場合の様式や提出先は、事前にねんきんダイヤルで確認してください。
注意点もあります。特別支給の老齢厚生年金(65歳前に受け取る年金)には繰下げ制度がないため、受給開始年齢になったら速やかに請求します。繰下げ待機中は加給年金額や振替加算を受け取れず、これらは増額の対象にもなりません。75歳に達した月を過ぎて請求しても増額率は増えません。
繰下げを予定していたものの、実際には65歳からの本来の年金をさかのぼって受け取ることもできます。70歳に達した日の後にさかのぼって受け取ることを選んだ場合は、請求の5年前の日に繰下げの申出があったものとみなして増額した年金を一括で受け取る「特例的な繰下げみなし増額制度」が適用されます(80歳以後に請求する場合などは対象外です)。
チェックリスト:海外で日本の年金を受け取るために
受給の時期と、すでに受給しているかどうかによって必要な手続きが変わります。当てはまる項目を確認してください。
この記事は日本年金機構・厚生労働省・国税庁などの公表資料をもとにした一般的な情報であり、個別の判断を示すものではありません。受給資格や手続き、税金の扱いは、日本年金機構(ねんきんダイヤル・年金事務所)や税務署に必ず確認してください。
- 【受給前・海外在住中】ねんきんネットのユーザIDを取得し、加入記録と受給開始年齢を確認する(海外住所あてにユーザIDが郵送されます)
- 【受給前・海外在住中】65歳まで国民年金に任意加入するか、カラ期間で受給資格期間を満たすかを決める
- 【受給前・海外在住中】過去に働いた国や住んでいる国が社会保障協定の通算の対象かを確認する
- 【受給開始年齢の前】年金請求書(老齢給付)をウェブサイトからダウンロードする(海外には事前送付されません)
- 【受給開始年齢の前】在留証明(本人・配偶者等)、受取口座の証明書類、居住国の税の申告書の写しなどを準備する
- 【受給開始年齢に達した後】年金請求書に「外国居住年金受給権者 住所・受取金融機関 登録(変更)届」を添えて、最終住所地を管轄する年金事務所などに提出する
- 【請求時】居住国に年金条項のある租税条約があれば「租税条約に関する届出書(様式9)」を2部提出する(アメリカは様式17-米とForm 6166も)
- 【受給中の人が海外に移るとき】年金支払日の前々月末日までに「外国居住年金受給権者 住所・受取金融機関 登録(変更)届」を提出し、年金生活者支援給付金を受けていれば不支給事由該当届も出す
- 【海外口座で受け取るとき】SWIFT(BIC)コードと、国に応じてIBAN・ABA・BSBなどを確認し、送金通貨で入金できる口座かを銀行に確認する
- 【毎年・誕生月】誕生月の末日までに現況届を提出する(日本国籍の人は過去6か月以内の在留証明を添付。マイナンバーカードがあればe-Govも可)
- 【毎年・1月】日本年金機構から届く支払調書を、居住国の税の申告用に保管する
- 【住所や口座が変わったとき】同じ届書で変更を届け出る(初回振込まで3〜4週間かかる場合があります)
- 【66歳以後】繰下げを選ぶ場合は、受け取りを始めたい時期に請求する
よくある質問
Q. 海外に住んでいると、年金請求書は送られてきますか。
A. 日本年金機構は、日本国外に住む人には「年金請求書(事前送付用)」を送っていないと案内しています。日本年金機構のウェブサイトから年金請求書(国民年金・厚生年金保険 老齢給付)をダウンロードし、受給開始年齢に達した日以降に、日本での最終住所地を管轄する年金事務所または街角の年金相談センターに提出します。
Q. 年金を日本の銀行口座で受け取り続けることはできますか。
A. できます。海外に住んでいても日本国内の金融機関の口座を受取先に指定できますが、ゆうちょ銀行は指定できません。海外の口座で受け取る場合は、国ごとに決められた通貨(たとえばユーロ圏はユーロ、一覧にない国はアメリカ・ドル)で送金され、通貨を自分で選ぶことはできません。
Q. 現況届を出し忘れるとどうなりますか。
A. 海外に住んで年金を受け取る人は、年1回、誕生月の末日までに現況届を提出する必要があります。日本年金機構の案内では、現況届を期限までに提出しないと、提出されるまで年金の支払いが一時止まるとされています。届かない場合は誕生月の中旬を目安に、届くのを待たずに在留証明等を添えて提出してください。
Q. 住んでいる国で年金に税金がかかる場合、日本でも源泉徴収されますか。
A. 非居住者が受け取る公的年金は、原則として一定額を差し引いた後の金額に20.42%の源泉徴収が行われます。老齢年金で、居住国との租税条約に年金に関する定めがある場合は、「租税条約に関する届出書(様式9)」を日本年金機構に提出すると日本の所得税が免除され、居住国で課税されます。カナダ、タイ、スウェーデンなど、条約が年金に適用されない国もあります。
Q. 海外に住んでいた期間は年金の受給資格にどう数えられますか。
A. 日本人が海外に住んでいた期間のうち国民年金に任意加入しなかった期間(20歳以上60歳未満)は合算対象期間(カラ期間)となり、10年の受給資格期間に数えられますが、年金額には反映されません。社会保障協定のある国(英国・韓国・中国・イタリアを除く)で年金制度に加入していた期間は、日本の受給資格を判断する際に通算できます。
Q. 海外に住んでいても繰下げ受給を選べますか。
A. 日本年金機構の繰下げ制度の案内には、海外居住を理由に繰下げができないとする記載はありません。66歳以後75歳までの希望する時期に請求すると、繰り下げた月数に応じて年金額が増額されます(最大84%)。特別支給の老齢厚生年金には繰下げ制度がないなどの注意点があるため、手続きの前にねんきんダイヤルで確認してください。
出典
本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、税務・法務の助言ではありません。個別の状況については税理士・税務署・年金事務所・市区町村などに確認してください。