海外に住所を移すと、住民票の除票をきっかけに住民税・国民年金・国民健康保険などの扱いが一斉に変わります。一部の手続きは「出国の時まで」や「転出予定日の前日まで」に済ませないと選べる選択肢が減るため、順番を押さえておくことが大切です。このガイドでは、出国前1か月から出国後までにやることを、公的機関の案内に沿って整理します。
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海外移住の手続きチェックリスト:住民税・年金・健康保険・確定申告(2026年)
最終確認: 2026-10(公的機関の情報をもとに作成)
海外転出届を出すと何が変わるか
海外に生活の拠点を移す場合は、住んでいる市区町村に転出届(国外転出の届出)を出します。転出予定日を過ぎると住民票は消除され、除票となります。受付を始める時期や必要書類は市区町村ごとに異なるため、早めに窓口やウェブサイトで確認してください。
住民票がなくなると、次のような影響があります。国民健康保険は都道府県の区域内に住所がある人が加入する制度のため、資格を失います。国民年金の第1号被保険者・第3号被保険者は、海外に居住すると加入資格を失います(日本国籍の人は任意加入が可能です)。翌年1月1日に国内に住所がなければ、翌年度の個人住民税は原則として課税されません。マイナンバーカードは、出国前に国外継続利用の手続きをしないと転出予定日に失効します。
所得税については、国税庁は1年以上の予定で海外に住む場合、一般に日本に住所がない者と推定され非居住者になると説明しています。住民票の手続きと税法上の居住者・非居住者の判定は別の制度なので、それぞれ確認が必要です。
あわせて、海外に住所等を定めて3か月以上滞在する日本人は、旅券法により現地の日本大使館・総領事館への在留届の提出が義務付けられています。オンライン在留届(ORRネット)なら現地到着の90日前から提出できます。国政選挙に海外から投票したい人は、国外転出届を出したときから転出予定日までの間に、市区町村の選挙管理委員会で在外選挙人名簿の登録を申請する「出国時申請」も利用できます。
住民税:1月1日時点の住所で課税が決まる
個人住民税は、その年の1月1日時点で市区町村に住所がある人に対して、前年1月から12月までの所得をもとに課税されます。このため、出国した年度の住民税(前年の所得に対する分)は、1月2日以降に出国しても納める必要があります。
一方、出国した年の所得に対する住民税は、翌年1月1日の時点で国内に住所がなければ、原則として課税されません。日本に家屋などを残す場合の扱いや、自分のケースでの課税関係は、住んでいた市区町村の税務担当に確認してください。
出国までに住民税を納め切れない場合は、出国前に日本に住む人の中から納税管理人を決め、市区町村に届け出る必要があります。会社員で給与から住民税が天引き(特別徴収)されている人は、退職時に残りの税額を給与や退職金から一括で徴収してもらう方法もあります。退職時期によっては一括徴収が原則となるため、勤務先の担当部署に確認してください。
所得税:出国時の準確定申告と納税管理人
所得税法上の「出国」とは、納税管理人を指定せずに非居住者になることをいいます。確定申告が必要な人が納税管理人を指定せずに出国する場合は、出国の時までに、その年1月1日から出国までの所得について確定申告(準確定申告)と納税をしなければなりません。
出国前に納税管理人を指定した場合は、居住者だった期間のすべての所得と、非居住者になった後の国内源泉所得(日本の不動産の賃貸収入など)を合わせて、翌年2月16日から3月15日までの通常の申告期間に、納税管理人を通じて申告・納税します。出国後も日本で不動産所得などがあり申告が必要な人は、納税管理人を定めておく必要があります。
納税管理人は個人でも法人でもよく、「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」を納税地を所轄する税務署長に提出します。届出後、税務署からの書類は納税管理人あてに送られます。帰国して不要になったときは、同じ届出書で解任を届け出ます。
出国時に所有する有価証券等の合計額が1億円以上で、出国の日前10年以内に国内に住所または居所があった期間の合計が5年を超える人は、「国外転出時課税制度」の対象になり、含み益に所得税がかかる場合があります。該当しそうな人は、国税庁の案内を確認したうえで税務署や税理士に相談してください。
国民年金:任意加入と合算対象期間(カラ期間)
日本国内に住所がある20歳以上60歳未満の人は国民年金への加入が義務ですが、海外に居住すると第1号・第3号被保険者は加入資格を失います。第1号被保険者は市区町村の国民年金担当窓口で、第3号被保険者は配偶者の勤務先を通じて手続きをします。
日本国籍があり海外に住む20歳以上65歳未満の人は、申し出れば国民年金に任意加入できます。出国前なら住んでいる市区町村の窓口で「国民年金被保険者関係届書(申出書)」を提出します。出国後に手続きする場合は、国内の協力者(親族など)がいれば日本の最後の住所地の市区町村、いなければ最後の住所地を管轄する年金事務所(日本に住んだことがない人は千代田年金事務所)が窓口です。保険料は、日本国内の預貯金口座からの口座振替か、国内の協力者による納付で納めます。付加保険料も納められますが、任意加入中は免除・納付猶予や学生納付特例は使えません。
任意加入して保険料を納めた期間は、老齢基礎年金の額に反映されます。また、海外在住中の死亡や障害についても、要件を満たせば遺族年金や障害年金の対象になります。
任意加入しなかった場合でも、日本人が海外に住んでいた期間(昭和61年4月以降は任意加入しなかった期間、20歳以上60歳未満に限る)は「合算対象期間(いわゆるカラ期間)」になります。合算対象期間は、老齢基礎年金を受け取るために必要な10年の受給資格期間には数えられますが、年金額には反映されません。年金額を増やしたいか、受給資格期間を満たすだけでよいかで判断が分かれます。
帰国して国内に住所を置くと強制加入に戻るため、転入先の市区町村で手続きが必要です。一時帰国で短期間だけ住民票を戻した場合も、その期間は強制加入となります。
厚生年金と社会保障協定
会社を辞めて海外に移住する場合、厚生年金の加入はその会社を退職した時点で終わります。それまでの厚生年金の加入期間は、将来の年金の受給資格期間と年金額の計算に使われます。
日本は、年金制度の二重加入を防ぎ、両国の加入期間を通算して受給資格を得やすくするための社会保障協定を各国と結んでいます。厚生労働省の資料では、2026年6月2日時点で24か国との協定が発効しています(ドイツ、英国、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア、オーストリア)。
加入期間の通算とは、一方の国の加入期間だけでは年金の受給資格を満たせない場合に、もう一方の国の加入期間も含めて資格を判断する仕組みです。年金は一方の国からまとめて支払われるのではなく、それぞれの国から、その国で加入した期間に応じて支給されます。なお、英国・韓国・中国・イタリアとの協定は保険料の二重負担の防止のみを定めており、加入期間の通算はできません。
協定の内容や対象となる制度は国ごとに異なります。移住先の国が協定国かどうか、通算の対象になるかは、日本年金機構の国別ページで確認してください。
国民健康保険の資格喪失と海外療養費
国民健康保険法では、都道府県の区域内に住所を有しなくなった日の翌日に被保険者の資格を失うと定められています。海外転出届を出すときに、国民健康保険の資格喪失の手続きも市区町村の窓口で済ませてください。必要な持ち物(資格確認書など)は市区町村に確認してください。
海外療養費は、公的医療保険の被保険者が海外渡航中に現地の医療機関で治療を受けた場合に、いったん全額を自己負担したうえで申請し、保険者の審査を経て支給される制度です。申請には、療養費支給申請書、医師の診療内容明細書と領収明細書(外国語の場合は日本語訳)、パスポートの写し、海外の医療機関に照会することへの同意書などが必要です。
この制度は被保険者であることが前提です。海外転出によって国民健康保険の資格を失った後は、海外での治療費は国民健康保険の対象になりません。移住後の医療は、現地の公的医療保険や民間の医療保険などで備える必要があります。
マイナンバーカードの国外継続利用(2024年5月27日から)
2024年5月27日から、日本国籍の人は国外転出後もマイナンバーカードを継続して利用できるようになりました。継続利用するには、国外転出予定日の前日までに、国外転出届を出す際にマイナンバーカードと「個人番号カード国外継続利用申請書」を市区町村に提出します。
手続きをすると、カードの券面に国外転出の年月日が追記され、ICチップ内の住所記録が変更されます。市区町村は国外転出者向けの電子証明書を発行し、カードは国外転出者向けマイナンバーカードとして出国後も使えます。
手続きをせずに国外転出すると、カードは転出予定日に失効します。その場合や、もともとカードを持っていない場合でも、2015年10月5日以降に国外転出した日本国籍の人は、国外から国外転出者向けカードを申請できます。継続利用しない場合は、カードの返納手続きが必要です。
国外転出者向けカードは有効期間満了日の1年前から更新でき、氏名等の変更や返納などは在外公館でも手続きできる場合があります。紛失時の一時停止には、国外転出者向けの専用ダイヤルが用意されています。
年金を受け取っている人が海外に住む場合
日本の年金を受け取っている人が海外に住むときは、「外国居住年金受給権者 住所・受取金融機関 登録(変更)届」を日本年金機構に提出します。海外の金融機関で受け取る場合は、口座を確認できる書類が必要です。日本国内の金融機関を受取先にすることもできますが、ゆうちょ銀行は指定できません。日本年金機構は、提出期限を年金支払日の前々月末日と案内しています。
非居住者に支払われる公的年金には、所得税の源泉徴収が行われます。国税庁によると、税率は20.42%で、年金額から月5万円(65歳以上は月9万5千円)に年金の月数を掛けた額を控除した残りに税率を掛けます。
日本と租税条約を結んでいる国に住む場合、条約の定めにより源泉徴収が免除または軽減されることがあります。老齢年金について条約の適用を受けるには、「租税条約に関する届出書(様式9)」を日本年金機構に提出します(アメリカ居住者は特典条項に関する付表と居住者証明書も必要です)。ただし、カナダ、タイ、スウェーデンなど、年金条項がないなどの理由で条約が年金に適用されない国・地域もあります。
海外に住む受給者は、毎年「現況届」を提出します。提出期限は誕生月の末日で、日本国籍の人は在外公館が発行する在留証明(誕生月を含む過去6か月以内に証明を受けたもの)を添付します。マイナンバーカードを持つ人はe-Govの電子申請でも提出できます。年金生活者支援給付金は海外に住むと支給されなくなるため、不支給事由該当届の提出が必要です。
出国前1か月〜出国後のチェックリスト
一般的な流れを時期ごとにまとめました。必要な手続きは家族構成、勤務状況、資産、年金の受給状況によって異なるため、該当するものを選んで確認してください。
この記事は一般的な制度の説明であり、税務・法務上の助言ではありません。個別の取り扱いや最新の制度は、住んでいる市区町村、税務署、年金事務所に必ず確認してください。
- 【出国前1か月ごろ】市区町村で国外転出届の受付時期・必要書類、マイナンバーカード国外継続利用の手続き方法を確認する
- 【出国前1か月ごろ】所得税と住民税の納税管理人を頼む人を決める(出国後に日本で申告や納税が残る場合)
- 【出国前1か月ごろ】国外転出時課税制度(有価証券等1億円以上など)の対象かどうかを確認する
- 【出国前1か月ごろ】国民年金に任意加入するかを決め、国内口座からの口座振替か、国内協力者による納付かを決める
- 【出国前1か月ごろ】年金受給者は「外国居住年金受給権者 住所・受取金融機関 登録(変更)届」と、該当する場合は「租税条約に関する届出書」を準備する
- 【出国前1か月ごろ】移住後の医療保険(現地の公的保険や民間の保険)を手配する
- 【出国前〜現地到着90日前以降】オンライン在留届(ORRネット)を提出する(3か月以上滞在する場合は義務)
- 【転出予定日の前日まで】国外転出届を提出し、同時にマイナンバーカードの国外継続利用を申請する(しない場合は返納)
- 【国外転出届の提出時】必要に応じて在外選挙人名簿の「出国時申請」を行う
- 【国外転出届の提出時】国民健康保険の資格喪失、国民年金の資格喪失または任意加入の手続きを行う
- 【出国まで】納税管理人の届出書を税務署と市区町村に提出する、または出国の時までに所得税の準確定申告と住民税の納付を済ませる
- 【退職する会社員】住民税の残額の一括徴収や、源泉徴収票の受け取りについて勤務先に確認する
- 【出国後】現地の在外公館に在留届が届いているか確認し、住所が決まったら変更届を出す
- 【出国後】国民年金に任意加入した人は、保険料の納付状況をねんきんネットなどで確認する
- 【出国後・翌年2月16日〜3月15日】納税管理人を指定した人は、納税管理人を通じて出国年分の確定申告を行う
- 【出国後・毎年】年金受給者は誕生月の末日までに現況届を提出する
よくある質問
Q. 年の途中で出国すれば、その年の住民税は払わなくてよいですか。
A. その年の1月1日に日本に住所があった場合、その年度分(前年の所得に対する分)の住民税は、出国後も納める必要があります。出国までに納め切れない場合は、納税管理人を定めて市区町村に届け出ます。出国した年の所得に対する住民税は、翌年1月1日に国内に住所がなければ原則として課税されません。
Q. 国民年金に任意加入しないと、海外にいた期間は年金上どう扱われますか。
A. 日本人が海外に住んでいて任意加入しなかった期間(20歳以上60歳未満)は合算対象期間(カラ期間)となり、老齢基礎年金の受給資格期間(10年)には数えられます。ただし年金額には反映されません。年金額を増やしたい場合や、海外在住中の障害・死亡に備えたい場合は、任意加入を検討してください。
Q. 海外移住後に現地で病気になった場合、日本の国民健康保険の海外療養費は使えますか。
A. 海外転出によって国内に住所がなくなると、国民健康保険の資格を失います。海外療養費は被保険者であることが前提の制度なので、資格喪失後の治療は対象になりません。現地の公的医療保険や民間保険で備えてください。
Q. 国外継続利用の手続きをせずに出国してしまいました。マイナンバーカードはどうなりますか。
A. カードは転出予定日に失効しています。2015年10月5日以降に国外転出した日本国籍の人は、国外から国外転出者向けマイナンバーカードを新たに申請できます。
Q. 出国前に必ず準確定申告をしなければいけませんか。
A. 確定申告が必要な人が納税管理人を指定せずに出国する場合は、出国の時までに準確定申告と納税が必要です。出国前に納税管理人を指定して税務署に届け出た場合は、翌年2月16日から3月15日までに、納税管理人を通じて申告・納税します。
Q. 海外に住んでも日本の年金は受け取れますか。税金はどうなりますか。
A. 受け取れます。「外国居住年金受給権者 住所・受取金融機関 登録(変更)届」を日本年金機構に提出します。非居住者への公的年金には20.42%の源泉徴収(一定額を控除した後)がありますが、租税条約を結んでいる国に住む場合は「租税条約に関する届出書」を出すことで免除・軽減されることがあります。条約が年金に適用されない国もあるため、事前に確認してください。
出典
- 総務省「個人住民税」
- 総務省「外国人の方の個人住民税について」(納税管理人・一括徴収)
- 総務省「在外選挙制度について」
- 国税庁 No.1926 海外勤務中に不動産所得などがある場合
- 国税庁 No.1923 海外勤務と納税管理人の選任又は解任
- 国税庁 No.1478 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例
- 国税庁 No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率
- 日本年金機構「国民年金の任意加入の手続き」
- 日本年金機構「日本国外・国内へ出入国する方へ(国民年金の手続き)」
- 日本年金機構「合算対象期間」
- 日本年金機構「社会保障協定」
- 日本年金機構「協定を結んでいる国との協定発効時期および対象となる社会保障制度」
- 日本年金機構「年金を受けている方が海外に居住するとき」
- 日本年金機構「海外にお住まいの年金を受けている方が誕生月を迎えたとき」
- 厚生労働省「社会保障協定の締結状況」(2026年6月2日現在)
- 厚生労働省 法令等データベース「国民健康保険法」
- マイナンバーカード総合サイト「マイナンバーカードを国外で利用する」
- 外務省「オンライン在留届(ORRネット)」
本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、税務・法務の助言ではありません。個別の状況については税理士・税務署・年金事務所・市区町村などに確認してください。
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