日本の所得税法には「183日滞在したら非居住者になる」という規定はなく、居住者かどうかは国内に住所(生活の本拠)があるか、1年以上の居所があるかで判定されます。183日という数字は、租税条約の短期滞在者免税や外国の国内法の居住者判定で使われるものです。このガイドでは、日本の判定基準と各種の「183日ルール」の違い、出国する年の税金の扱いを整理します。
「183日ルール」はなぜ誤解されやすいのか
海外移住やノマド生活の情報では「年の半分(183日)以上海外にいれば日本の非居住者になる」という説明がよく見られます。しかし、日本の所得税法は居住者を「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人」と定義しており(所得税法2条1項3号)、滞在日数だけで日本の居住者・非居住者が決まる仕組みにはなっていません。
国税庁のタックスアンサー(No.2012)も、居住者の判定は滞在日数のみによって判断するものではないため、外国に1年の半分(183日)以上滞在している場合であっても日本の居住者となる場合がある、と明記しています。
183日という数字が登場するのは、主に次の2つの場面です。どちらも「日本の居住者かどうか」を直接決めるルールではない点に注意してください。
- 租税条約の「短期滞在者免税」:外国で働いた給与をどちらの国が課税するかを決める条件の一つ
- 外国の国内法による居住者判定:その国が自国の居住者として課税するかどうかの基準(日数の数え方は国ごとに異なる)
日本の所得税法上の区分:居住者・非永住者・非居住者
所得税法は個人の納税義務者を居住者と非居住者に分け、居住者をさらに「非永住者以外の居住者」と「非永住者」に分けています(所得税法2条1項3号〜5号、5条、7条)。区分によって日本で課税される所得の範囲が大きく変わります。
非永住者は日本国籍を持たない人に限られる区分なので、日本国籍の人は日本の居住者であれば「非永住者以外の居住者」となり、国内外のすべての所得が課税対象になります。
- 非永住者以外の居住者:国内に住所がある、または現在まで引き続き1年以上居所がある個人のうち非永住者以外の人。国内および国外で生じたすべての所得(全世界所得)が課税対象
- 非永住者:居住者のうち、日本国籍がなく、かつ過去10年以内に国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年以下の人。国外源泉所得以外の所得と、国外源泉所得のうち国内で支払われたもの・国外から送金されたものが課税対象
- 非居住者:居住者以外の個人。国内源泉所得に限って課税
- 「住所」は各人の生活の本拠、「居所」は生活の本拠という程度には至らないものの現実に居住している場所をいいます(所得税基本通達2-1、国税庁タックスアンサーNo.2012)
- 「1年以上」の居所の期間は、入国の日の翌日から起算します(所得税基本通達2-4)
「生活の本拠」の判断要素と住所の推定規定
住所(生活の本拠)がどこにあるかは客観的事実によって判定されます(所得税基本通達2-1)。国税庁は、国内に生活の本拠があるかどうかを、住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍等の客観的事実によって判断するとしています。住民票の転出届を出したかどうかだけで決まるものではありません。
国の内外にわたって居住地が移る人については、所得税法施行令14条・15条の「住所の推定」規定を基に判定します。海外移住で特に関係するのは、国内に住所を有しない者と推定される場合(施行令15条)です。
所得税基本通達3-3は、事業を営み、または職業に従事するために国外に居住することとなった人は、その地での在留期間が契約等によりあらかじめ1年未満であることが明らかな場合を除き、施行令15条1項1号(国外で継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する)に該当するものとしています。このため、会社員が1年以上の予定で海外の支店などに転勤すると、一般的には国内に住所を有しない者と推定され、非居住者となります(国税庁タックスアンサーNo.1920)。
- 判断要素の例:住居(国内の住居を維持しているか)、職業(どこで働いているか)、資産の所在、親族(生計を一にする配偶者などがどこに住んでいるか)、国籍
- 施行令15条1項1号:国外において継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合は、国内に住所を有しない者と推定
- 施行令15条1項2号:外国の国籍を有する、または外国の法令によりその国に永住する許可を受けており、かつ国内に生計を一にする配偶者その他の親族がいないことなど、再び国内に帰って主として国内に居住すると推測するに足りる事実がない場合も、国内に住所を有しない者と推定
- 推定される本人と生計を一にする配偶者や扶養親族が国外に居住する場合は、これらの人も国内に住所を有しない者と推定(施行令15条2項)
- 予定が変わった場合:1年以上の予定で出国した人が1年未満で帰国することになった場合は、それが明らかになった日以後は居住者となり、出国時に遡って区分が変わることはありません(国税庁 質疑応答事例)
- 国内に配偶者などを残している、再入国後に住む予定の家屋を保有している、生活用動産を預けているなど、国外に赴いた目的が明らかに一時的と認められる場合は、その在外期間中も引き続き国内に居所を有するものとして扱われます(所得税基本通達2-2)
租税条約の「短期滞在者免税」は居住者判定とは別のルール
租税条約の短期滞在者免税は、ある国の居住者が他方の国で勤務して得た給与について、一定の条件を満たせば勤務地国では課税せず、居住地国だけが課税するというルールです。つまり、すでに「どちらの国の居住者か」が決まっていることを前提に、給与への課税権を配分するもので、日本の居住者・非居住者を決める基準ではありません。
条件は条約によって異なります。たとえば日米租税条約(14条2項)では、下記の3つをすべて満たす場合に、居住地国においてのみ課税できるとしています。
183日の数え方も条約ごとに違います。日米租税条約は「当該課税年度において開始又は終了するいずれの12か月の期間」で数えるのに対し、日中租税協定(15条2項)は「当該年を通じて」合計183日を超えないことを条件としています。また国税庁は、滞在期間は物理的な滞在日数の合計によるもので、入国日と出国日のいずれも加えて判定するとの見解を示しています(質疑応答事例、日韓租税条約の例)。
- 勤務地国での滞在期間が、課税年度において開始または終了するいずれの12か月の期間においても合計183日を超えないこと
- 報酬が勤務地国の居住者でない雇用者(またはこれに代わる者)から支払われること
- 報酬が雇用者の勤務地国内にある恒久的施設によって負担されないこと
双方居住者になった場合のタイブレーカー
外国の居住者になるかどうかはその国の法令で決まります(国税庁タックスアンサーNo.2012)。そのため、日本の基準では日本の居住者、外国の基準ではその国の居住者という「双方居住者」になり、両国で課税される可能性があります。日本とその国の間に租税条約があれば、条約の規定に従ってどちらの国の居住者とみなすかを決めます。
多くの条約では、下記の順番で判定する方法(タイブレーカー)が定められています。日米租税条約(4条3項)は、恒久的住居から国籍までの順で判定し、国籍でも決まらない場合は両国の権限のある当局が合意により解決するとしています。
ただし、すべての条約が同じ方式ではありません。たとえば日中租税協定(4条2項)は、双方居住者となる個人について、両国の権限のある当局が合意によりどちらの国の居住者とみなすかを決定すると定めています。自分が関係する国との条約本文を財務省の「我が国の租税条約等の一覧」で確認してください。
- 1. 恒久的住居:使用する恒久的住居がある国の居住者とみなす
- 2. 重要な利害関係の中心:恒久的住居が両国にある場合は、人的・経済的関係がより密接な国
- 3. 常用の住居:利害関係の中心が決められない、または恒久的住居がどちらにもない場合は、常用の住居がある国
- 4. 国籍:常用の住居が両国にある、またはどちらにもない場合は、国籍がある国
- 5. 相互協議(権限のある当局の合意):両国の国民である、またはどちらの国民でもない場合
外国の「183日ルール」は国ごとに数え方が違う
外国の国内法による居住者判定にも183日前後の日数基準を使う国は多いものの、数え方や併用される基準は国ごとに異なります。「暦年(1月〜12月)」で数える国もあれば、「任意の12か月間」で数える国もあり、日数以外の要素で居住者になる国もあります。
本サイトの国別データ(taxResidency 欄)にまとめている例を挙げます。いずれも概要なので、実際の判定は各国の税務当局の情報で確認してください。
- タイ:暦年で180日以上の滞在(183日ではなく、暦年単位で数える例)
- エストニア:12か月間に183日以上の滞在、または恒久的住居(暦年ではなく12か月間で数え、住居の基準も併用する例)
- 英国:法定居住テスト(SRT)で判定し、183日はその基準の一つにすぎない(自動海外テスト・自動英国テスト・十分な関連性テストを組み合わせる例)
デジタルノマドが「どこの国の居住者でもない」と考えるときの注意点
複数の国を短期間ずつ移動していると「どの国にも183日いないので、どこにも税金を払わなくてよい」と考えがちです。しかし国税庁は、1年の間に居住地を数か国にわたって転々と移動する、いわゆる「永遠の旅人(Perpetual Traveler)」であっても、その人の生活の本拠が日本にあれば日本の居住者となると説明しています(タックスアンサーNo.2012)。
日本に生活の本拠が残っていれば、日本の居住者として全世界所得が日本で課税されます。また、外国の居住者になるかどうかはその国の法令で決まるため、本人が意識しないうちにどこかの国の居住者とされている可能性もあります。
仮に日本の非居住者でありながらどの国の居住者でもない場合、租税条約の恩恵を受けにくくなる点にも注意が必要です。たとえば日米租税条約は、一方または双方の締約国の居住者である者にのみ適用すると定めています(1条1項)。
- 日本に住居を残している、家族が日本に住んでいる、日本の取引先と継続的に仕事をしている、資産の大半が日本にあるといった事情は、生活の本拠が日本にあると判断される方向の事実になり得ます
- 各国の入出国日(パスポートの記録や航空券)、住居の契約、仕事の拠点などの記録を残しておくと、居住地を説明する際の材料になります
- 滞在先の国でビザや居住許可を取得している場合、その国の居住者判定の基準も別途確認が必要です
出国する年の課税と、出国前に確認したい手続
年の途中で出国して非居住者になった年は、その年1月1日から出国の日までの居住者期間に生じたすべての所得と、出国の翌日から12月31日までの非居住者期間に生じた国内源泉所得とを合わせて課税されます(国税庁タックスアンサーNo.1926)。会社員が1年以上の予定で海外勤務になる場合は、居住者としての最後の給与の支給時に年末調整を行います。非居住者が国外勤務で得た給与には、原則として日本の所得税は課税されません(No.1920)。
出国前の手続は、納税管理人を定めるかどうかで変わります。納税管理人を定めて出国した場合は、居住者期間のすべての所得と非居住者期間の国内源泉所得の合計について、翌年2月16日から3月15日までに納税管理人を通じて確定申告・納税をします。納税管理人を定めずに出国する場合は、居住者期間のすべての所得について出国の時までに準確定申告が必要です。出国後に国内の不動産の貸付けなどによる国内源泉所得が生じる場合は、準確定申告をしていても、改めて納税管理人を通じた確定申告が必要になります(No.1926)。
個人住民税は、その年の1月1日時点で市町村に住所がある人に、前年の所得を基に課税されます(総務省)。1月1日時点で国内に住所があれば、その年の途中で出国しても課税の対象です。
国外転出の時点で1億円以上の有価証券等を所有し、原則として出国前10年以内に国内に住所または居所があった期間の合計が5年を超える人は、国外転出時課税により含み益に所得税が課税されます(No.1478)。
帰国して居住者になった年は逆に、帰国前の国内源泉所得(総合課税の対象となるもの)と帰国後のすべての所得を合計して計算します(No.1935)。
このガイドは一般的な制度の説明であり、個別の税務アドバイスではありません。居住者・非居住者の判定は個々の事実関係によって結論が変わるため、具体的な判断は税理士または所轄の税務署に相談してください。
よくある質問
Q. 海外に183日以上滞在すれば、日本の非居住者になりますか?
A. 自動的にはなりません。日本の居住者かどうかは、国内に住所(生活の本拠)があるか、引き続き1年以上の居所があるかで判定され、滞在日数だけでは決まりません。国税庁も、外国に183日以上滞在していても日本の居住者となる場合があると説明しています。
Q. 住民票を抜いて海外転出届を出せば、税務上も非居住者になりますか?
A. 転出届を出したかどうかだけでは決まりません。住所は住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍などの客観的事実で判断されます。国外で継続して1年以上居住することを通常必要とする職業に就いた場合などは、国内に住所を有しない者と推定されます。
Q. 1年以上の予定で出国しましたが、半年で帰国することになりました。区分はどうなりますか?
A. 国税庁の質疑応答事例によると、出国の時から非居住者として扱われ、勤務期間が1年未満となることが明らかになった日以後は居住者となります。出国時に遡って居住者になることはありません。逆に1年未満の予定で出国して1年以上になった場合は、それが明らかになった日以後が非居住者です。
Q. ノマドとして複数の国を移動していれば、どこの国でも課税されませんか?
A. そうとは限りません。国税庁は、数か国を転々と移動する人でも生活の本拠が日本にあれば日本の居住者になるとしています。また外国の居住者になるかどうかはその国の法令で決まります。どの国の居住者でもない場合は、租税条約の適用を受けにくくなる点にも注意が必要です。
Q. 日本と外国の両方で居住者とされた場合はどうなりますか?
A. 租税条約があれば、その規定に従ってどちらの国の居住者とみなすかを決めます。多くの条約は恒久的住居、重要な利害関係の中心、常用の住居、国籍の順で判定し、決まらなければ両国当局の合意によります。条約によっては最初から当局間の合意で決める方式もあります。日本の居住者として外国で納めた所得税は、外国税額控除の対象になり得ます。
出典
本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、税務・法務の助言ではありません。個別の状況については税理士・税務署・年金事務所・市区町村などに確認してください。