EUには加盟国共通の入国・滞在ルールがある一方で、90日を超える滞在や就労の許可、所得税は基本的に各国が決めます。日本国籍者はシェンゲン圏に「あらゆる180日間で最大90日」まで査証なしで滞在でき、2026年4月10日からはEES(出入域システム)で顔写真と指紋が記録され、滞在日数が電子的に管理されています。このページでは、移住・長期滞在・就労を考える人が押さえておきたいEUレベルのルールを、2026年10月時点の公式情報でまとめます。
シェンゲン圏の短期滞在「90日/180日ルール」
シェンゲン協定の加盟国は29か国で、EU加盟国25か国と、EU非加盟のアイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタインの4か国です。ブルガリアとルーマニアは2025年1月1日に完全な加盟国となりました。一方、EU加盟国のうちキプロスは国内国境の管理撤廃がまだ決まっておらず、アイルランドはシェンゲンの国境管理に参加していない(独自の査証・国境政策を持つ)ため、シェンゲン圏には含まれません。
日本国籍者は、観光や知人訪問などの短期滞在であればシェンゲン圏に査証(ビザ)なしで入国できます。ただし、査証なしの短期滞在は「あらゆる180日の期間内で最大90日間を超えない」範囲に限られ、90日は国ごとではなくシェンゲン圏全体で合算されます。この規定は2013年10月18日から適用されており、それ以前の「最初の入国日から6か月のうち最大3か月」という数え方とは異なります。
数え方は「移動する180日の窓」です。欧州委員会の短期滞在計算ツールの説明では、滞在する各日から180日さかのぼり、その期間の滞在日数の合計が90日を超えないことを確認するとされています。過去180日以内に他のシェンゲン国で過ごした日数もすべて合算されるため、国を移動しても日数はリセットされません。
- シェンゲン協定加盟国(29か国):アイスランド、イタリア、エストニア、オーストリア、オランダ、ギリシャ、クロアチア、スイス、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、フランス、ブルガリア、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、マルタ、ラトビア、リトアニア、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、ルーマニア
- 短期滞在の査証免除を受けるには、シェンゲン圏からの出国予定日から3か月以上の残存有効期間があり、かつ10年以内に発行された旅券が必要です(外務省 海外安全ホームページ)
- オーストリアとは二国間の査証免除取極があり、観光等で6か月以内の滞在は査証が免除されますが、この取極はオーストリアとの間でのみ有効です。90日を超えて滞在する場合は、他のシェンゲン国を経由する出入国に注意が必要と外務省が案内しています
- アイルランドとも査証免除取決めがあり、観光等の非営利活動で6か月以内の滞在は査証が免除されますが、入国時の最長許可期間は90日です(外務省 海外安全ホームページ)
- 欧州委員会は、90日/180日ルールを満たしているかを確認できる「短期滞在計算ツール(Short-stay calculator)」を公開しています
EES(出入域システム):2026年4月10日から全面運用
EES(Entry/Exit System)は、短期滞在で入国する非EU国籍者が、システムを導入する欧州29か国の外部国境を通過するたびに、出入国を電子的に記録する仕組みです。日本国籍者も対象です。2025年10月12日に段階的な運用が始まり、約6か月の移行期間を経て、2026年4月10日に全面運用となりました。全面運用以降、EESは旅券へのスタンプ押印に代わり、滞在期限を超えた超過滞在を自動的に検出できるようになっています。
記録されるのは、旅券の情報(氏名、生年月日など)、顔画像と指紋(eu-LISAの説明では顔画像と4指の指紋)、出入国の日付と場所、入国拒否の記録です。初めてEES導入国に入国するときに国境検問所で生体情報を登録し、2回目以降は登録済みの情報と照合します。渡航前に行う手続はありません。駐日EU代表部によると、指紋の登録や顔写真の撮影を拒否すると入国できません。
データの保存期間は、出入国・入国拒否の記録が作成日から3年、個人ファイルが最後の出国から3年と1日です。滞在期限の満了後に出国記録がない場合(超過滞在)は5年保存されます。欧州委員会の2026年3月30日の発表では、2025年10月12日の運用開始以降に4,500万件以上の国境通過が登録されています。
- EESの対象国はシェンゲン協定加盟の29か国で、キプロスとアイルランドでは運用されていません(駐日EU代表部)
- 対象は短期滞在で入国する非EU国籍者です。日本人旅行者は、初回入国時に国境検問所の専用端末や係官の案内に従って登録します
- eu-LISAによると、2026年4月10日までに1,800以上の外部国境通過地点に導入され、2025年10月から2026年3月末までに28,165件の入国拒否が記録されました
- 入国・出国の日付が電子的に記録されるため、90日/180日ルールの日数管理はより厳格になります。手元でも入出国日を記録しておくと安心です
ETIAS(欧州渡航情報認証制度):開始日は未発表、手数料は20ユーロ
ETIAS(European Travel Information and Authorisation System)は、日本を含む査証免除国の国籍者が、30の欧州諸国(シェンゲン協定加盟の29か国とキプロス)に短期滞在で渡航する前に、オンラインで渡航認証を取得する制度です。ETIASの開始後は、ビザ免除で渡航する日本人も事前の申請が必要になります。
開始時期について、欧州委員会は2026年1月29日の記事で「2026年第4四半期に開始予定」とし、eu-LISAも2026年3月の理事会で「2026年末の運用開始に向けて準備中」としていました。しかし2026年10月時点で、欧州委員会とeu-LISAの公式ページは「ETIASは現在運用されておらず、申請は受け付けていない」と記載するのみで、具体的な開始日は示していません。EUは開始日を運用開始の数か月前に告知するとしています。
現在の公式ページで案内されている主な内容は次のとおりです。開始前に申請を受け付けると称するサイトには注意してください。
- 手数料:20ユーロ(以前予定されていた7ユーロから引き上げ)。18歳未満と70歳以上、EU市民の一定の家族などは免除(eu-LISA)
- 有効期間:3年間、または申請に使った旅券の有効期限までのいずれか短い方(欧州対外行動庁、駐日EU代表部)
- 審査期間:ほとんどの申請は数分で処理され、時間がかかる場合も原則4日以内に結果が出ます。追加情報の提出を求められた場合は最大14日、面接が必要な場合は最大30日延長されることがあります(欧州対外行動庁)
- 認証後も、滞在できるのは90日/180日ルールの範囲内です。ETIASは査証(ビザ)ではなく、長期滞在や就労の許可にはなりません。
長期滞在・就労:各国の許可、EUブルーカード、EU長期居住者資格
90日を超える滞在のための査証は、EU共通ではなく各国の手続によるものとされています。留学、就労、家族帯同などの長期滞在は、滞在先の国の国内査証(ナショナルビザ、いわゆるDビザ)や居住許可が必要です。手続も国によって異なり、たとえば外務省によると、ドイツは日本国籍者が査証なしで入国してから外国人局で滞在許可を申請できますが、予約が取れず90日以内に許可が出ないケースが多発しています。また、ドイツ以外の国での長期滞在を目的に渡航した日本人が、経由地のドイツで滞在許可証や長期滞在査証の提示を求められ、入国を拒否された事例もあると外務省は注意を呼びかけています。
EUレベルで共通ルールがあるのは、高度人材、企業内転勤者、季節労働者など特定の類型に限られます。代表例が高度人材向けの「EUブルーカード」で、改正EUブルーカード指令(指令(EU)2021/1883)は2021年に採択され、加盟国は2023年11月18日までに国内法化することとされました。デンマークとアイルランドを除く25のEU加盟国で適用されます。
もう一つのEU共通の制度が「EU長期居住者資格」(指令2003/109/EC)です。EU加盟国に合法的に5年間継続して居住し、安定した収入と医療保険があること(国によっては統合措置の修了も)などの条件を満たすと取得でき、就労・教育・社会保障などで自国民に近い待遇を受けられます。欧州委員会は2022年4月に改正案を提案しましたが、2024年の前議会任期末までに合意に至らず、交渉は中断しています。
- EUブルーカードの主な条件:高度な職務に関する6か月以上の雇用契約または拘束力のある内定、資格の証明、有効な旅券、医療保険
- 給与基準:その国の平均総年収の1倍以上1.6倍以下の範囲で各国が設定します。欧州委員会のEU移民ポータルに掲載されたドイツの例(2024年)は45,300ユーロ、人材不足職種は41,041.80ユーロで、金額は国・年ごとに変わります
- 有効期間:少なくとも24か月(契約がそれより短い場合は契約期間+3か月)で、条件を満たしていれば更新できます
- EU内の移動:最初の国で12か月を過ごした後、別の加盟国に移って高度な職務に就くことができます。その際は移動先の国で新たにブルーカードを申請します
- 家族:家族の呼び寄せが迅速化され、家族も労働市場にアクセスできます
- EU長期居住者資格との関係:ブルーカード保持者は、異なる加盟国で過ごした居住期間を一定の条件で合算できるため、長期居住者資格を取得しやすくなります
税:税務上の居住者・租税条約・非協力的税制地域リスト・DAC8とCRS
EUには共通の所得税はありません。EUは税金の徴収や税率の決定に直接の役割を持たず、市民が払う税額は各国政府が決めます。税務上の居住者の定義もEU共通のルールはなく、各国が独自に定めています。EUの公式ポータル「Your Europe」の説明では、一般に1年のうち6か月を超えて過ごす国で税務上の居住者とされることが多く、居住者となった国は通常、全世界の所得に課税できます。2か国から居住者とされた場合は、租税条約でどちらの国の居住者とするかを決めるのが一般的です。
日本の租税条約ネットワークは、2026年10月1日現在で91条約等・157か国・地域に適用されています(うち二重課税の除去等を主な内容とする租税条約は78本・81か国・地域)。財務省の「我が国の租税条約等の一覧」(2026年6月26日現在)では、EU加盟27か国のうち25か国と二国間の租税条約がありますが、キプロスとマルタとの二国間租税条約は掲載されていません。移住先の国との条約の有無と内容を確認しておきましょう。
EUは「税務上の非協力的地域リスト」を年2回見直しています。2026年10月9日の改訂で、パナマとベトナムが附属書I(非協力的地域)から外れて附属書II(監視対象)に移りました。改訂後の附属書Iは、米領サモア、アンギラ、グアム、パラオ、ロシア、タークス・カイコス諸島、米領バージン諸島、バヌアツの8地域です。附属書IIは、英領バージン諸島、ブルネイ、エスワティニ、グリーンランド、ヨルダン、モンテネグロ、モロッコ、パナマ、トルコ、ベトナムの10地域です。
金融口座と暗号資産の情報は、税務当局間で自動的に交換されています。EUでは、OECDの共通報告基準(CRS)に対応する金融口座情報の交換をDAC2(指令2014/107/EU)で定め、暗号資産については2023年10月17日に採択されたDAC8(指令(EU)2023/2226)が2026年1月1日から適用されています。DAC8はOECDの「暗号資産等報告枠組み(CARF)」に基づき、暗号資産サービス提供者に利用者の取引情報の収集・報告を義務付けるもので、最初の報告年(2026年)分の情報交換は2027年9月30日までに行われます。
- DAC8:加盟国は2025年12月31日までに国内法化し、2026年1月1日から適用。2026年分の情報は2027年9月30日までに交換されます
- 日本のCRS:2017年1月1日以後に金融機関で口座を開設する人などは居住地国を記載した届出書を提出し、金融機関は2018年以後、毎年4月30日までに非居住者の口座情報を報告します。改訂後の制度は2026年から施行され、2027年以後の報告・交換に使われます(国税庁)
- 日本のCARF:2026年1月1日以後、暗号資産交換業者等と取引する人は居住地国等を記載した届出書の提出が必要になり、国内の暗号資産交換業者等は2027年以後、毎年4月30日までに非居住者の取引情報を報告します(国税庁)
- EUに移住して日本の非居住者になると、日本の証券口座や暗号資産交換業者の情報が、これらの仕組みで居住地国の税務当局に提供される可能性があります
デジタルノマド:EU共通のノマドビザはなく各国の制度
EUには、加盟国共通の「デジタルノマドビザ」はありません。90日を超える滞在の査証は各国の手続によるものとされ、EUレベルで共通ルールがあるのは高度人材や企業内転勤者などの特定の類型に限られます。外国の雇用主や自分の会社のためにリモートで働く人向けの滞在許可は、導入している国がそれぞれ独自に定めています。
欧州移民ネットワーク(EMN)が2021年に加盟国へ行った照会でも、回答は国によって分かれました。たとえばクロアチアは制度ありと回答し、ブルガリアは導入を検討していないと回答しています。収入要件、滞在できる期間、更新の可否、家族の帯同、現地の税の扱いは国ごとに大きく異なるため、当サイトの国別サマリーで各国のノマド向け滞在許可を比較してください。
ノマド向けの許可で長く滞在すると、その国の税務上の居住者になる可能性があります。前述のとおり居住者の判定は各国が決めるため、滞在国の税務当局や専門家に確認しましょう。本ページは制度の一般的な説明で、個別の法的・税務アドバイスではありません。最新の情報は各国の大使館や移民当局、税務当局の公式サイトでご確認ください。
よくある質問
Q. シェンゲン圏で90日を使い切った後、いったん英国やアイルランドに出れば、また90日滞在できますか?
A. いいえ。シェンゲン圏の外に出ても日数はリセットされません。滞在する各日から180日さかのぼり、その期間のシェンゲン圏での滞在日数の合計が90日を超えないことが条件です。シェンゲン圏外で過ごした日は数えないため、日数が180日の窓から外れていくのを待つ必要があります。
Q. EESのために、渡航前に何か手続が必要ですか?
A. 渡航前の手続はありません。2026年4月10日からEESが全面運用され、シェンゲン協定加盟の29か国に短期滞在で入国するときに、国境検問所で旅券情報と顔画像・指紋が登録されます。2回目以降は登録済みの情報と照合されます。指紋や顔写真の提供を拒否すると入国できません。
Q. ETIASはもう申請が必要ですか?
A. 2026年10月時点ではまだ必要ありません。欧州委員会とeu-LISAの公式ページでは、ETIASは運用されておらず、申請も受け付けていないとされています。開始日は運用開始の数か月前に告知される予定です。開始後は手数料20ユーロ(18歳未満と70歳以上は免除)で、有効期間は3年または旅券の有効期限までです。
Q. EUブルーカードがあれば、EUのどの国でも働けますか?
A. ブルーカードは発行した国での就労許可です。最初の国で12か月を過ごした後、別の加盟国に移って高度な職務に就くことができますが、移動先の国で新たにブルーカードを申請する必要があります。デンマークとアイルランドではEUブルーカード制度は適用されません。
Q. EUに移住したら、所得税はどの国に払うのですか?
A. EU共通の所得税はなく、税務上の居住者の定義も国ごとに異なります。一般に1年のうち6か月を超えて過ごす国の居住者とされることが多く、その国が通常、全世界の所得に課税します。日本とその国の両方から居住者とされる場合は、租税条約で居住地国を決めるのが一般的です。日本はEU加盟国のうちキプロスとマルタとは二国間の租税条約を結んでいません(2026年6月26日現在の財務省一覧)。
Q. DAC8とは何ですか?日本の暗号資産口座にも関係しますか?
A. DAC8は、EU域内の暗号資産サービス提供者に利用者の取引情報の報告を義務付け、税務当局間で自動的に交換するEUの指令で、2026年1月1日から適用されています。日本でも同じOECDの枠組み(CARF)に基づき、2026年1月1日以後に届出書の提出が必要になり、国内の暗号資産交換業者等は2027年以後、非居住者の取引情報を報告します。
出典
本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、税務・法務の助言ではありません。個別の状況については税理士・税務署・年金事務所・市区町村などに確認してください。