日本の株式会社は、代表取締役の全員が海外に住んでいても設立・登記できます(2015年3月16日の法務省通知で国内居住要件が撤廃されました)。ただし、会社そのものは本店所在地が日本にある「内国法人」として日本の法人税の対象であり続け、海外に住む役員に支払う役員報酬は、国外で働いた分も含めて国内源泉所得として20.42%の源泉徴収を受けます。設立時の印鑑証明の代わりになる署名証明、出資金を払い込む日本の銀行口座、登記後の住所変更や社会保険、会社をたたむときの解散・清算、12年登記がないと起こるみなし解散まで、海外在住者が押さえておくべき実務をまとめました。
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海外在住者と日本の会社(株式会社・合同会社):代表取締役の居住要件・海外からの設立・役員報酬の源泉徴収20.42%・社会保険・住所非表示・休眠解散(2026年)
最終確認: 2026-10(公的機関の情報をもとに作成)
代表取締役の居住要件:2015年3月16日以降は全員が海外在住でも設立・登記できる
かつては、日本の株式会社(内国株式会社)の代表取締役のうち少なくとも1人は日本に住所がなければ、設立登記や代表取締役の就任・重任の登記を受理しないという法務省の取扱い(昭和59年9月26日民四第4974号回答、昭和60年3月11日民四第1480号回答)がありました。
この取扱いは、平成27年(2015年)3月16日付けの法務省民事局商事課長通知(法務省民商第29号「内国株式会社の代表取締役の全員が日本に住所を有しない場合の登記の申請の取扱いについて」)で廃止されました。通知は、代表取締役の全員が日本に住所を有しない内国株式会社の設立登記の申請と、その代表取締役の重任・就任の登記の申請について「本日以降、これらの申請を受理して差し支えありません」としています。
法務省の「外国人・海外居住者の方の商業・法人登記の手続について」のページも、代表取締役の全員が海外に居住していても日本で会社の設立登記を申請でき、日本人であることも必要ない旨を明記しています。したがって、すでに海外に住んでいる人が自分だけを取締役・代表取締役として株式会社を作ることも、現在の代表取締役が海外に転居してそのまま代表を続けることも、登記の面では可能です。
ただし「登記ができる」ことと、「海外から経営して実務上・税務上の問題がない」ことは別です。以下では、設立時の手続、住所の登記、役員報酬と社会保険、法人の税務、会社のたたみ方の順に、海外在住者が実際につまずきやすい点を説明します。
海外から会社を設立する手続:定款認証・署名証明・出資金の払込口座・オンライン化の現状(2026年)
株式会社の設立では、発起人が作った定款について公証人の認証を受け(会社法30条)、出資金の払込みをしたうえで、本店所在地を管轄する法務局に設立登記を申請します。合同会社は定款認証が不要で、設立登記の登録免許税も低く設定されています。
定款認証は、本店所在地を管轄する法務局・地方法務局に所属する公証人しか行えません(管轄外の公証人による認証は無効です)。日本公証人連合会によると、株式会社の認証手数料は資本金の額等が100万円未満で3万円、100万円以上300万円未満で4万円、それ以外は5万円です。さらに2024年12月1日からは、発起人の全員が自然人で3人以下、発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける旨の定めがあり、取締役会を置く旨の定めがない資本金100万円未満の株式会社については1万5,000円に引き下げられています。紙の定款には4万円の収入印紙が必要ですが、電子定款なら不要です。謄本は1枚250円です。
海外在住者にとって最大の実務上の論点は、発起人の本人確認と、出資金を払い込む口座です。
- 発起人の本人確認:定款認証では発起人の印鑑登録証明書(発行後3か月以内)を求められますが、海外に転出して印鑑登録を抹消した人は取得できません。日本公証人連合会は、印鑑登録制度のない外国人について、在留カード・運転免許証・パスポートのほか「当該国の駐日領事による署名証明書」で確認できるとし、代理人に委任する場合は委任状に公証人か領事の認証を受けるか、領事等公的機関の署名(サイン)証明で真正を確認するとしています。海外在住の日本人の場合は在外公館の署名証明(サイン証明)を使うのが一般的な実務ですが、公証役場ごとに扱いが異なるため、嘱託先の公証役場に事前に確認してください。署名証明の取り方は当サイトの「在留証明・署名証明(サイン証明)の取り方」ガイドを参照してください
- 電子定款とウェブ会議:2024年3月1日から、電子定款の面前審査は特段の希望がない限りウェブ会議(FACEHUB)で行うことが原則になりました。来所を希望する場合は「ウェブ会議の利用を希望しない旨の申告書」を出します。海外からの参加の可否や時差への対応は公証役場に確認が必要です
- 実質的支配者の申告:2018年11月30日から、株式会社等の定款認証では、成立時の実質的支配者となる人の氏名・住居・生年月日と、暴力団員等に該当しないことを申告します
- 出資金の払込口座:法務省によると、設立登記に添付する「払込みがあったことを証する書面」に使える払込取扱機関は、内国銀行の国内本支店、内国銀行の海外支店(現地法人を除く)、外国銀行の国内支店です。外国銀行の海外本支店は使えません。口座名義人は原則として発起人か設立時取締役で、設立時取締役の口座を使うときは発起人からの委任状を添付します。発起人と設立時取締役の全員が国内に住所を有しない場合に限り、第三者(法人を含む)の口座も認められます(委任状が必要)。外貨預金の場合は払込日の為替相場と円換算額を記載します。通帳には「入金」の記録が必要で、残高があるだけでは認められません
- 設立登記のオンライン申請:登記・供託オンライン申請システムの利用時間は平日8時30分から23時、休日8時30分から18時(12月29日から1月3日を除く)で、登記所の受付は平日8時30分から17時15分です。申請書情報には申請人または代理人の電子署名が必要ですが、電磁的記録でない添付書面は書面で提出・送付することもできます。2021年2月15日からは定款認証の嘱託と設立登記の申請を同時にオンラインで行え、設立時役員等が5人以内、添付書面がすべてPDF、登録免許税が電子納付、補正なしという条件を満たせば原則24時間以内に登記が完了します(申請当日に公証人とのテレビ電話面談が必要)
- 2026年の電子証明書の変化:2026年7月21日から、商業登記電子証明書にGビズIDと連携したリモート署名方式が導入され、スマートフォンのGビズIDアプリで電子署名を付与できるようになりました。従来のファイル形式の証明書は有効期限内は使えますが、リモート署名には使えず、2026年7月以降に新たに取得する必要があります。海外からオンライン申請を完結させるには、これらの電子証明書と、日本の司法書士等の資格者代理人をどう組み合わせるかが鍵になります
- 登録免許税:株式会社の設立は資本金の額の1,000分の7(15万円に満たないときは15万円)、合同会社の設立は1,000分の7(6万円に満たないときは6万円)です
- 設立後の税務署への届出:法人設立届出書は設立の日(設立登記の日)以後2か月以内に定款の写しを添えて納税地の所轄税務署へ提出します。設立第1期から青色申告をするなら、設立の日以後3か月を経過した日と第1期の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日までに承認申請書を出します。事前確定届出給与に関する届出書の期限は設立の日以後2か月を経過する日までです
役員の住所の登記と海外住所:変更は2週間以内、2024年10月1日からの住所非表示措置
株式会社では、代表取締役の氏名と住所が登記事項です(会社法911条3項14号)。取締役の氏名は登記されますが住所は登記されません。登記事項に変更が生じたときは2週間以内に変更の登記をしなければならず(会社法915条1項)、これは代表取締役が海外に転居した場合も同じで、外国の住所を登記します。登記を怠ると100万円以下の過料の対象になります(会社法976条1号)。役員に関する事項の変更の登記の登録免許税は1件につき3万円(資本金1億円以下の会社は1万円)です。
登記された代表取締役の住所は、登記事項証明書や登記情報提供サービスで誰でも見られます。これに対応するため、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)により、2024年(令和6年)10月1日から「代表取締役等住所非表示措置」が始まりました。対象は株式会社の代表取締役・代表執行役・代表清算人で、措置が講じられると、住所は最小行政区画(市区町村、東京都では特別区、指定都市では区)までしか記載されなくなります。
利用にあたっての要点は次のとおりです。
- 申出は、設立・就任・住所移転などの登記の申請と同時にする場合に限りできます。すでに登記されている住所について単独で申し出ることはできません。住所に変更がない重任の登記や、本店移転後の新本店所在地での登記と同時に申し出ることは可能です
- 上場会社以外は、本店所在地の実在を確認できる書面(会社宛ての配達証明書と郵便物受領証、または司法書士等の資格者代理人が実在性を確認した書面)、代表者の本人確認に関する市町村長等発行の証明書(住民票の写し、戸籍の附票の写し、印鑑証明書など)、実質的支配者の本人特定事項を証する書面(資格者代理人の確認記録の写し、公証人の認証を受けた供述書面、定款認証時の申告受理及び認証証明書など)を添付します。海外在住者は住民票も印鑑証明書も取れないため、どの書面で代替できるかを申請前に法務局に確認してください
- 措置が講じられても登記義務は免除されません。住所が変わったときは変更登記が必要で、その際に改めて申出をしないと新しい住所には措置が講じられません
- 法務省は、登記事項証明書で代表者の住所を証明できなくなるため、金融機関からの融資や不動産取引で不都合が生じる可能性があると注意しています。海外在住者が日本の銀行と取引する場合は特に、措置を講じる前に取引先と相談してください
- 希望しない旨の申出書(会社の登記所届出印を押印)を単独で提出すれば、いつでも取りやめられます。本店が登記上の所在地に実在しない蓋然性が高い場合などは、登記官が職権で措置を終了させることがあります
非居住者である役員の報酬:国外で働いた分も20.42%の源泉徴収、租税条約の役員報酬条項
海外に住み、所得税法上の非居住者になった人は、日本では国内源泉所得だけが課税対象です。従業員(使用人)の給与は「国内において行う勤務」に基因するものだけが国内源泉所得なので、海外で働いた分には日本の所得税はかかりません。ところが、所得税法161条1項12号イは、国内源泉所得となる給与・報酬に「内国法人の役員として国外において行う勤務」に基因するものを含めると定めています。日本の会社(本店または主たる事務所が日本にある内国法人)の役員として受ける報酬は、海外で働いた分も含めて全額が国内源泉所得になるということです。
国税庁タックスアンサーNo.1929は、内国法人の役員として国外で勤務した場合には「その給与は、日本国内で生じたものとして」支払を受ける際に20.42%(所得税20%、復興特別所得税0.42%)の税率で源泉徴収されると説明しています。例外は、役員であってもその内国法人の使用人として常時海外で勤務する場合(内国法人の取締役が海外支店の支店長など使用人として常時勤務している場合)で、この場合の勤務に対する給与は源泉徴収の対象になりません。令和9年分(2027年分)以後は、所得税と復興特別所得税に防衛特別所得税を加えた合計で源泉徴収される旨が注記されています。
源泉徴収をするのは支払者である会社です。役員報酬を海外の口座に送金するなど支払が国外で行われる場合でも、支払者が国内に事務所等を有するときは国内で支払ったものとみなして源泉徴収をしなければならず、この場合の納期限は徴収した日の属する月の翌月末日です(所得税法212条2項)。外貨で支払うときは原則として支払期日の電信買相場で円換算します。
租税条約には、多くの場合「役員報酬条項」があります。たとえば日米租税条約15条は、一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の役員の資格で取得する役員報酬その他これに類する支払金に対しては、当該他方の締約国(法人の所在地国)において租税を課することができると定めています。つまり、日本の会社の役員報酬については、移住先の国との条約でも日本の課税権が認められているのが通常で、条約によって日本の20.42%が免除されることは基本的に期待できません。条約の具体的な条文番号と内容は国ごとに異なるので、財務省の租税条約一覧(2026年10月1日現在、91条約等・157か国・地域に適用)で移住先との条約を確認してください。
一方、移住先の国が居住者であるあなたの全世界所得に課税する場合、日本で源泉徴収された役員報酬は二重課税になり得ます。その調整(外国税額控除など)をどのように受けられるかは移住先の税法と条約次第です。配当や使用料のように条約で日本側の税率が軽減される所得については、最初に支払を受ける日の前日までに「租税条約に関する届出書」を支払者経由で支払者の納税地の所轄税務署長に提出します。特典条項のある条約では「特典条項に関する付表(様式17)」と居住者証明書も必要です。届出書を出さずに国内法の税率で源泉徴収された場合は、後から「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書(様式11)」で差額の還付を請求できます(タックスアンサーNo.2888)。
海外赴任中の従業員や駐在役員の扱い(出国時の年末調整、賞与の按分など)は当サイトの「海外赴任(駐在員)の税金と社会保険」ガイド、日本の取引先から業務委託の報酬を受ける個人事業主の扱いは「個人事業主・フリーランスの海外移住」ガイドを参照してください。
海外在住の役員の社会保険:健康保険・厚生年金は「適用事業所に使用されるか」で決まる
株式会社・合同会社などの法人の事業所は、事業主1人だけの会社でも健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所です。日本年金機構は、個人事業を法人化して事業主が役員報酬を受け取り従業員を雇わないケースについて「社会保険の加入が必要です」とし、法人事業所の場合は常時雇用される者が事業主を含めて1人以上いれば加入しなければならないと答えています。被保険者になるのは適用事業所に常用的に使用される70歳未満の人で、使用関係は雇用契約書の有無ではなく、実際に働いて報酬を受けているかという実態で判断されます。
海外に住んでいることは、それ自体では被保険者資格を失う理由になりません。日本年金機構は「健康保険および厚生年金保険は、適用事業所に勤務する限り、国内における住所の有無を問わず加入します」と案内しています。また、日本国内の適用事業所との雇用関係が継続したまま海外で勤務し、出向元から給与の一部または全部が支払われているときは、原則として健康保険・厚生年金保険の加入は継続するとしています。日本の会社から役員報酬を受け続ける海外在住の役員についても、この考え方が出発点になります。
ただし、日本年金機構が「海外に住む役員」というケースに限定して取扱いを示した公開資料は確認できませんでした。役員報酬の有無や金額、日本での業務の実態、移住先での社会保険加入の状況によって結論が変わり得るため、会社の管轄の年金事務所に事前に相談してください。関連して次の点も押さえておきましょう。
- 介護保険(40歳から64歳の第2号被保険者)は国内に住所がある人だけが対象です。海外に住所を移す場合は「介護保険適用除外等該当・非該当届」を出して介護保険料の徴収をやめ、帰国したときに再び加入の手続をします
- 社会保障協定を結んでいる国で働く場合は、相手国の社会保障制度への加入が免除されることがあります。協定の内容は国ごとに異なり、協定がない国では日本と移住先の両方で保険料がかかることもあります。詳細は当サイトの「海外赴任(駐在員)の税金と社会保険」ガイドを参照してください
- 海外の会社からも報酬を受ける場合、適用事業所(日本の会社)の給与規定や出向規定に基づいて実質的に日本の会社から支払われているものだけが標準報酬月額の基礎になります。海外の会社の規定に基づいて直接支払われる給与は含めません
- 複数の法人から役員報酬を受ける場合(たとえば海外で設立した会社と日本の会社の両方の代表である場合で、どちらも日本の適用事業所に当たるとき)は、二以上の事業所勤務の届出が必要で、保険料は各事業所の報酬額に応じて按分されます
- 海外在住で日本の会社から役員報酬を受けない(無報酬の)役員の扱いを示した公開資料は確認できませんでした。年金事務所に確認してください
法人の税務:本店所在地主義、海外からの経営とPE・管理支配地、配当・みなし配当の源泉徴収20.42%、会社の口座
法人税法では、国内に本店または主たる事務所を有する法人が内国法人で、それ以外が外国法人です(本店所在地主義)。普通法人である内国法人は全ての所得に対して法人税が課され、納税地は原則として本店または主たる事務所の所在地です。代表者が海外に住み、海外から経営していても、日本に本店のある会社は日本の法人税・地方税の申告と納税を続ける必要があります。
一方で、移住先の国の税法は別の判断をすることがあります。国税庁タックスアンサーNo.2875が説明するとおり、租税条約では法人が双方の国の居住者とされる場合に備えて、本店または主たる事務所の所在地、事業の実質的な管理の場所、設立地などを考慮して居住地国を決める基準や、両国の当局の合意で決める仕組みが置かれています。設立地や本店所在地ではなく「実質的な管理の場所」で法人の居住地を判定する国に住み、そこから日本の会社の重要な意思決定をすべて行っている場合、その国が会社をその国の居住法人として扱ったり、その国に恒久的施設(PE)があるとみなして課税したりする可能性があります。これは移住先の国内法と日本との租税条約によって決まる問題で、一般論として「日本法人だから日本でだけ課税される」とは言い切れません。移住前に、移住先の税制に詳しい専門家に確認してください。
会社から株主である自分に配当を出す場合、非居住者が内国法人から受ける剰余金の配当は国内源泉所得(所得税法161条1項9号イ)で、支払の際に源泉徴収されます。税率は上場株式等の配当等が15.315%、それ以外(非上場会社の配当)が20.42%です(タックスアンサーNo.2884)。自己株式の取得や会社の解散による残余財産の分配などで受け取る金銭のうち資本金等の額を超える部分は配当とみなされ(所得税法25条、みなし配当)、同じく源泉徴収の対象です。租税条約の配当条項で限度税率が定められていれば、支払の前日までに届出書を出すことで軽減を受けられます。
会社の銀行口座については、法務省の案内は設立登記に使える払込口座の範囲(前述)を示しているだけで、銀行が海外在住の代表者の会社に口座を開設するか、既存の法人口座を維持するかは各銀行の審査と判断によります。代表者が海外に転居したときに、銀行から本人確認書類や在留証明の提出、取引目的の再確認を求められることがあります。設立前・出国前に取引銀行に方針を確認し、必要なら日本に住む取締役や代理人を置くことも検討してください。個人口座の扱いは当サイトの「銀行口座と海外送金」ガイドを参照してください。
会社をたたむ・休ませる:解散と清算の登記、12年で起こる休眠会社のみなし解散
海外移住を機に日本の会社を閉じる場合は、株主総会の決議で解散し(会社法471条3号)、2週間以内に本店所在地で解散の登記をします(会社法926条)。解散すると清算に入り、定款の定めや株主総会の選任がなければ取締役が清算人になります(会社法478条1項)。清算人は就任後遅滞なく財産目録と貸借対照表を作って株主総会の承認を受け(492条)、債権の取立て・債務の弁済・残余財産の分配を終えたら決算報告を作成して株主総会の承認を受け(507条)、承認の日から2週間以内に清算結了の登記をします(929条)。登録免許税は解散の登記が3万円、清算人の登記が9,000円、清算結了の登記が2,000円です。解散に伴う法人税の申告(解散事業年度・清算事業年度)と、残余財産の分配で生じるみなし配当の源泉徴収も忘れないでください。
「とりあえず放置する」のは危険です。会社法472条は、株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過した会社を「休眠会社」とし、法務大臣が官報で公告したにもかかわらず2か月以内に「事業を廃止していない」旨の届出をしないときは、期間満了時に解散したものとみなすと定めています。法務省は平成26年度から毎年この整理作業を行っており、令和8年度(2026年度)は次の日程です。
- 2026年10月15日:法務大臣による官報公告と、管轄登記所から登記上の本店宛ての通知書の発送
- 2026年12月15日:この日までに「まだ事業を廃止していない」旨の届出、または必要な登記(役員変更など)の申請をする必要があります
- 2026年12月16日:手続をしなかった会社はこの日付で解散したものとみなされ、登記官が職権で解散の登記をします
- 通知書は登記上の本店所在地に送られます。本店移転や商号変更の登記をしていない、代表者が海外にいて郵便物を確認していないなどの理由で届かなくても、手続をしなければ解散したものとみなされます
- 届出をしただけでは翌年度も対象のままです。役員の任期に応じた変更登記(重任登記)をしていれば、そもそも対象になりません。登記を怠っていた事実自体は届出をしても消えず、100万円以下の過料の対象になり得ます
- みなし解散の後も、3年以内であれば株主総会の特別決議で会社を継続でき(会社法473条)、継続の決議から2週間以内に継続の登記(登録免許税3万円)をします。3年を過ぎると継続はできず、清算するしかありません
- 自分の会社が対象かどうかは、登記事項証明書で最後の登記の日付を確認すれば分かります。株式会社の取締役の任期は最長でも10年なので、少なくとも10年に1度は重任登記が必要です。海外にいて日本の郵便物を見られない人は、司法書士などに登記の期限管理を依頼しておくと安心です
- 本ページは制度の一般的な説明で、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の手続は、司法書士・税理士・社会保険労務士や、管轄の法務局・税務署・年金事務所にご相談ください
よくある質問
Q. 海外に住んだまま、日本に一人も役員を置かずに株式会社を設立できますか?
A. できます。2015年3月16日付けの法務省民事局商事課長通知(民商第29号)により、代表取締役の全員が日本に住所を有しない株式会社の設立登記や、代表取締役の就任・重任の登記は受理されることになりました。法務省のページも、代表取締役の全員が海外に居住していても設立登記を申請でき、日本人である必要もないと明記しています。ただし、出資金の払込口座、定款認証の本人確認、法人口座の開設、税務・社会保険の実務は別途対応が必要です。
Q. 印鑑証明書が取れません。定款認証や設立登記はどうすればよいですか?
A. 日本公証人連合会は、印鑑登録制度のない外国人について、在留カード・運転免許証・パスポートのほか領事による署名証明書で本人確認ができ、代理人に委任する場合は委任状に公証人か領事の認証または署名証明を付けるとしています。海外在住の日本人は在外公館の署名証明(サイン証明)を使うのが一般的な実務です。具体的にどの書面を求めるかは公証役場・法務局によって異なるので、申請前に必ず確認してください。
Q. 海外在住の役員です。海外で働いた分の役員報酬にも日本の税金がかかりますか?
A. かかります。所得税法161条1項12号イにより、内国法人の役員として国外で行う勤務に基因する報酬は国内源泉所得とされ、支払の際に20.42%の税率で源泉徴収されます(国税庁タックスアンサーNo.1929)。例外は、役員であっても海外支店の支店長のように使用人として常時海外で勤務する場合です。日米租税条約15条のように、多くの租税条約の役員報酬条項は法人の所在地国の課税を認めているため、条約による免除は通常期待できません。移住先での二重課税の調整は、その国の税法と条約によります。
Q. 代表取締役である私が海外に引っ越しました。登記の変更は必要ですか?住所を隠せますか?
A. 代表取締役の住所は登記事項なので、変更が生じた日から2週間以内に変更登記が必要です(会社法915条)。怠ると100万円以下の過料の対象になります。2024年10月1日からの代表取締役等住所非表示措置を使えば、登記事項証明書などでの住所の表示を市区町村までにできますが、申出は住所移転などの登記申請と同時にしなければならず、上場会社以外は本店の実在性や代表者の本人確認、実質的支配者に関する書面が必要です。措置を講じると登記事項証明書で住所を証明できなくなるため、融資や不動産取引で不都合が生じる可能性があると法務省は注意しています。
Q. 海外に住みながら日本の会社から役員報酬をもらっています。健康保険と厚生年金はどうなりますか?
A. 法人の事業所は事業主1人でも強制適用事業所で、日本年金機構は健康保険・厚生年金保険について「適用事業所に勤務する限り、国内における住所の有無を問わず加入します」と案内しています。日本の適用事業所との関係が続き、そこから報酬が支払われていれば、原則として加入は継続すると考えられます。ただし海外在住の役員に限定した公式の取扱いは確認できなかったため、管轄の年金事務所に相談してください。介護保険は国内に住所がある人だけが対象なので、海外に住所を移したら適用除外の届出をします。
Q. 使っていない会社を放置するとどうなりますか?
A. 株式会社は最後の登記から12年を経過すると休眠会社として法務省の整理作業の対象になり、官報公告から2か月以内に「まだ事業を廃止していない」旨の届出も登記もしなければ、解散したものとみなされます(会社法472条)。令和8年度は2026年10月15日に公告、12月15日が期限で、12月16日付けでみなし解散の登記がされます。通知が海外の代表者に届かなくても結果は同じです。みなし解散後3年以内なら株主総会の特別決議で継続できますが、それを過ぎると清算するしかありません。
出典
- 法務省 外国人・海外居住者の方の商業・法人登記の手続について
- 法務省 平成27年3月16日民商第29号 内国株式会社の代表取締役の全員が日本に住所を有しない場合の登記の申請の取扱いについて(通知)
- 法務省 代表取締役等住所非表示措置について
- 法務省 休眠会社・休眠一般法人の整理作業について(令和8年度)
- 法務省 定款認証と設立登記のオンライン同時申請・24時間以内処理
- 法務省 商業・法人登記のオンライン申請について
- 法務局 商業・法人登記の申請書様式(設立・役員変更・解散・清算結了・継続)
- デジタル庁・法務省 商業登記電子証明書のリモート署名方式の運用開始について(2026年7月21日)
- 日本公証人連合会 定款認証(手数料・必要書類・ウェブ会議・実質的支配者の申告)
- 日本公証人連合会 会社の定款認証手数料の改定(2024年12月1日施行)
- 日本公証人連合会 定款認証Q&A 外国人・外国会社が発起人となる場合の本人確認
- 国税庁 タックスアンサー No.1929 海外で勤務する法人の役員などに対する給与の支払と税務
- 国税庁 タックスアンサー No.2884 源泉徴収義務者・源泉徴収の税率(非居住者等)
- 国税庁 タックスアンサー No.2875 居住者と非居住者の区分
- 国税庁 タックスアンサー No.2873 非居住者等に対する課税のしくみ
- 国税庁 タックスアンサー No.2878 国内源泉所得の範囲
- 国税庁 タックスアンサー No.2888 租税条約に関する届出書の提出
- 国税庁 タックスアンサー No.5100 新設法人の届出書類
- 国税庁 タックスアンサー No.7191 登録免許税の税額表
- 国税庁 法人税のあらましと申告の手引(令和7年10月1日現在)
- 国税庁 源泉徴収のしかた 令和8年版(配当所得・非居住者又は外国法人に支払う所得の源泉徴収事務)
- 日本年金機構 適用事業所と被保険者
- 日本年金機構 海外へ転勤または転職するときの手続き/海外から帰国したときの手続き
- 日本年金機構 海外勤務者の報酬の取扱い(リーフレット)
- 日本年金機構 年金Q&A 個人事業を法人化し事業主が役員報酬を受け取る場合の加入
- 日本年金機構 年金Q&A 複数の法人で役員報酬を受け取る場合(二以上事業所勤務)
- 財務省 租税条約に関する資料(2026年10月1日現在の締結状況)
- 財務省 日米租税条約(2003年署名)条約本文(第15条 役員報酬)
- e-Gov法令検索 会社法(第471条〜第478条、第492条、第507条、第911条、第915条、第926条、第929条、第976条)
- e-Gov法令検索 所得税法(第25条、第161条、第212条、第213条)
- e-Gov法令検索 登録免許税法(別表第一 第24号 会社の商業登記)
本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、税務・法務の助言ではありません。個別の状況については税理士・税務署・年金事務所・市区町村などに確認してください。
- 2026年12月15日 日本、休眠会社の整理(届出期限)
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